11月1日

 クランクシャフトのリアオイルシールなど、足りない部品をマツダのディーラーに取りに行ったら、お姉さんに「スーツを買わない?」と聞かれた。一瞬、何のことか分からず、2、3回聞き返してしまった。どういうことだ。

 説明によると、毎年この時期にスーツを販売しているのだという。渡された封筒の中の説明書きには「新生長野マツダ1周年記念」と銘打っている。「特別価格でご提供」とも。紳士服メーカーがディーラーを会場に販売会を開くらしい。フロントのお兄さんは、接客担当のため販売ノルマが多く割り振られ、もし売れないと自分で買わないといけないらしい。このご時世、車を売っているだけではディーラーでは勤まらないのか。大変だ。

 友人の結婚式やジムニーの車検に加え、ロードスターの任意保険の請求が来ているので、今、究極にお金がない。値段を見ると、仕立てスーツが5万円ぐらい。これは、かなりの出費だ。

 けれども、用もないのにふらふらと出掛けていって、店長とマニアックな話に興じ、出されたコーヒーを、あ、いつもすいませんね、などと恐縮したふりをしながら、遠慮なくがぶ飲みしてしまい、挙げ句の果てにはここから1台も車を買ったことがなく、営業成績にはほとんど貢献していないのだから、このディーラーには迷惑をかけているのである。スーツ1着ぐらい買ってあげないと、申し訳ない。ちょうど、冬用のを1着欲しかったところだし。

 だから、前向きな返事をしたのでした。

10月31日

朝、人に会うため、なぜかアルプス公園というところに行った。松本市中心部から北西に位置する、小高い丘の上の公園である。

ここは、春になると、大量に植えられた桜が美しい場所。あまりにも大量にありすぎて、ちょっと不自然な、少し下品な感じも受けないこともないけれど、松本城と並んで、松本の桜の名所である。しかも、小高い丘の上にあるから、松本城よりも1週間ぐらい満開の時期がずれる。疲れたときに行って、リフレッシュするにはちょうどいい場所。

公園は、紅葉が真っ盛り。3年いながら、紅葉の美しさに目を奪われたことはなかったが、改めて秋の色づきもいいものだな、と感心した。

会おうと思っていた人がいなかったので、公園行きは空振り。街中に下りてきて、ジムニーで松本城の近くを通り、再びはっとした。赤く色づいたソメイヨシノが目に飛び込んできた。秋のきれいさはどこか、寂しさもあり、なにか年寄りくささもあって、これまであまり気にしていなかった。松本は秋の季節も、いい。

そう思うようになった自分は、やはり昔よりも歳を取っているのかしら。

10月30日

 6月半ばから履いていたタイヤ「ぎゅーん」(TOYO)のおいしいところが終わりかけている。

 一番、分かりやすいのがハンドルの重さ。パワステを捨てちゃったので、減り具合が直接重さとなって伝わってくる。RE711からぎゅーんに替えたとき、パワステを再び付けたかのように軽くなった。新しいタイヤにすれば、パワステが付いていても軽く感じるのだから、重ステの場合、劇的に変化する。最近、妙に重くなったなと思っていたが、タイヤの減りが原因だろう。

 今のところ、スポーツ走行ではそれほどグリップの変化を感じない(下手だから、鈍いのかも知れない)けれど、日曜日に雨の中央道を走って、危ない思いをした。わだちを踏んでしまうと、突然、ハンドルが利かなくなる。重ステだとまったく手応えがなくなるので、タイヤが浮きかけた微妙な変化が分かる。冷や冷やしながら走った。

 スリップサインを見ると、あと1ミリちょっとの寿命か。12月半ばになれば、スタッドレスタイヤのシーズンとなるので、実際に付け替えるのは来シーズン、3月末ぐらいとなる。お金を貯めておかなければ。

 RE711と比べて、そのグリップ力の弱さに最初びっくりしたけれど、最近では当たり前になったためか、それほど気にならない。それどころか、いつもの山道では、RE711を履いていたときよりも、速く走っているような気がする。もちろん、エンジンのパワーが上がっていることは差し引いての話。

 あくまで「気のせい」かもしれないけれど、グリップの弱いタイヤに変わって走り方が変わった。RE711を履いていたときは、今よりももちろんコーナーへの進入が速い。そして、同じコーナーではまんべんなく、クリップについて、コーナーの出口まで、同じタイヤの負荷で走っていた気がする。

 これがぎゅーんでは、RE711に比べて突っ込むことができないから、進入でかなり減速している。しかし、鼻先の方向を変え、クリップに付き、出口に向かう段階で、アクセルを全開にできる。RE711を履いていたときは、クリップの時点での速度は速いかもしれないけれど、出口で姿勢が安定するまでアクセルを踏めない。結局、立ち上がりに差が出て、その後のスピードの伸びが違う。

 走り方が変わったのは、7月に富山県某所である方からレクチャーしてもらったことも大きい。ちょうどタイヤを替えた直後だったため、それまでの走り方をすると危険だったことも幸いした。ひょっとすると、ぎゅーんを履いてからは「立ち上がり重視」というのかも知れない。以前の走り方だと、コーナー中にタイヤを一杯一杯使っているので、もし何か障害物があったり、少し失敗してアンダーステアや強オーバーを出してしまうと、事故となる可能性が大きい。RE711はグリップ力が高いから、タイヤ任せに、少し危険な走り方をしても、ごまかすことができたし、「これが一番速い」と勘違いしていた。

 タイヤの減り方も、特性の差かもしれないが、RE711が内側が片減りしていたのに対し、ぎゅーんはきれいに減っている。サーキット走行でショルダー部が少し多く減ったのが気になるくらい。

 走り方の差で、スピードに違いがでるのはこのごろ、何となく分かってきた。しかし、「まだ車の乗せられている」状態。車のすべてをコントロール下に置けるまでには至っていない。

 まだまだ、だな。

10月29日

 約25000円の請求が、クレジットカード会社から来た。

 F1に行ったとき、致命的なミスをした。友達に立てかえてもらっていたチケット代も含めて、銀行からお金を下ろしておくのを忘れたのだ。気が付いたのが金曜日の夜7時すぎ。すでにキャッシュディスペンサーは閉まっている時間である。口座は地方銀行にあるので、土、日曜日だと、県外で引き下ろせない可能性が高い。

 仕方がないので、さまざまな場面でクレジットカードを使った。高速料金、ガソリン代、おみやげ、昼食代などなど。これまで、インターネットプロバイダーの請求や、ネットを通じた通信販売ぐらいにしか使ったことがなかったので、かなり衝撃を受けた。

 だって、楽すぎる。高速道路やガソリンスタンドだと、現金で払うよりも簡単に決済が済んでしまう。特に高速だと、ハイウエーカードを使うより早い。おみやげ店でも、ちょっと機械にカードを通して、紙にサインするだけ。この場合は、機械が通信している時間が少しかかるけれど、キャッシュレスの便利さを実感してしまった。

 これじゃあ、勘違いする人もいても仕方がない、と思う。本気で、お金がなくても何でも手にはいるような錯覚を覚えます。ちょっと調子に乗れば、数十万ぐらいの買い物なら、簡単にしてしまえそう。

 明細を見たら、ガソリン代や高速代の請求が来月になるようだった。もう1回同じぐらいの額の請求が来ることになる。これをうっかり忘れて、ロードスターのパーツを調子に乗って買っていると…。

10月28日

医師の卵の友人の結婚式に出席した。友達から呼んでもらったのは初めて。こう書くと、いかにも寂しい惨め野郎に見えるけれど、親しい友人で結婚したのは、彼が一番なのだ。

結婚式というと、大散財、おまけに親族の目の前で恥ずかしい思いをしなくてはならないのだから、最近では地味婚などといって、簡単に済ませたり、入籍だけしたりする人もいる。僕は、世間並みにやった方がいい、と思っている。人生の中で、セレモニーというのは、一見、馬鹿げて見えるけれど、ここ数年、さまざまなところに頭を突っ込んでいると、けっこう重要なことであるように思えてきた。

気取っちゃって、ふふん、結婚式なんて形式だけのものはつまらない。ハートさえあれば、いい。と、ロマンチックな考えにふけりつつ、マイホームの頭金を作る方が先だ、などと極めて現実的なこともつぶやきながら、完全に2人だけの世界で思考が完結してしまい、式を開かなかったとしたら、10年後ぐらいに寂しい思いをするんじゃないかしら、と思う。あのときは、あんなに馬鹿馬鹿しいことやっちゃった、と2人、顔を見合わせて笑うのは微笑ましい光景だが、開かなかった場合、やっぱり開けば良かったと考えるのは寂しい。開かなかったのはあなたに甲斐性がないからよ、などと夫婦間に不穏な空気が流れたりして、家庭内不和の火種とならないとも限らない。

と、くだらないことを書いたけれど、友人の式は極めてステレオタイプなものだった。感動した。やっぱりいいもんだな、と思った。

写真の撮影を頼んでいない、というから、僕が引き受けることにした。当日は、1眼レフのカメラにデジカメ、ノートパソコンというものものしい出で立ちで式場に向かった。せっかくのメシも喰らう暇がないかな、と思ったけれど、式場のカメラマンがカメラ2丁をぶら下げてうろうろしていたから、何とか、すべて平らげることができた。それでも24枚撮りで6本ぐらい撮ったから、席を立ち、場内を駆け回って撮影した後、再び座ってメシを喰らい、再び動きがあったら、またすぐ立つという忙しい思いをした。そして、なぜかメモを取った。

結婚式の2次会。1次会に出席できなかった人ために様子を伝え、新夫婦の記念にしてもらおうと、印刷物を作った。ノートパソコンはこれを作るためわざわざ持っていったのである。「パーソナル編集長」というマイナーだがすばらしいDTPソフトを使えば、これくらいのものなら簡単にできる。(→これ。友人は了という名前)

ここの雅スポみたいなノリにしようかなとも思ったけれど、2人にとっては一生の思い出の1つとなるかもしれないから、まじめに作った。一生懸命書いたメモがここで生かされるのだ。1次会終了後、礼服に白ネクタイのおめでたルックで、ピンク色の袋に入った引き出物と、でかいカメラ、かばんを手に名古屋の街をうろつき、目に入ったのがあるイタリアンなカフェ。アイスコーヒー1杯頼んだだけなのに、1時間半ぐらい粘った。しかも、こっそりコンセントも拝借した。ごめんなさい。

画像ではカラーだが、実際はプリンター代わりにファクスを借りて印刷したから、モノクロ。40枚コピーして、2次会会場へ。思いの外、喜んでもらえた。さすがに疲れたので、2次会の写真を大量に撮影する気にはならず。周りは医者ばかりだから、あまり話が合いそうもなかったので、高校時代の友人と思い出話にふけったのだった。

大量に飲み、食い、幸せな2人を見せつけられて、おなか一杯。ごちそうさま。

10月26日

 ジムニーが車検から帰ってきた。

 平成元年式のJA71。550ccのターボ付。走行距離は少なくまだ70500キロぐらいである。3年ちょっと前に45万円で購入した。松本地方ではジムニーの需要が高いので、中古市場は高値安定である。今でも同じ形式・同程度の車で30万円代で売っている。何でも、製造台数のうち、スクラップされた車両の台数の割合が、かなり低い車なんだそうな。

 今回は、あまりお金がかからないかな、と思っていたら、冷却水漏れを発見された。ウオーターポンプのベアリングにガタが出て、そこからにじんでいたらしい。タイミングベルト、オイルシールとともに交換を勧められた。

 電話で聞いたとき、自分でもできそうな作業だったので少し悩んだ。45万の車にあまりお金をかけたくない。が、やっぱり交換をお願いした。僕が作業するとして、1日作業。もしかすると、何日かにまたがるかも知れない。ジムニーに何日かかけるより、今はロードスターのエンジンチューンを進めたかった。それに、プロにやってもらえる作業は任せてしまった方が安心。自分の時間が買えると思えば、決して高いとは思わない。

 結局、車検費用と、入りが悪かったFMラジオのアンテナ交換、エアコンベルトとウオーターポンプベルト、さらに下回りのさび止め加工なども合わせて11万7000円。前回の車検では、デフ回りのオイルシールの交換で同じくらい掛かっている。エアコンコンプレッサーからの異音も指摘されたけれど、コンプレッサーだけで5万円ぐらいかかるらしいから、今回は見合わせた。どうせ効かないので、夏場にもあまり使っていないし。

 実はロードスターの任意保険代の請求も迫っている。明日は友人の結婚式でこれから実家に帰らなければならない。当然祝儀を出す。ガソリンを燃やす。出費がかさむ、かさむ。

 足回りの交換が遠のく。

10月25日

愛知・刈谷に向かう途中の中央道(中津川から多治見まで)。ここでちょっぴり怖い思いをした白昼夢(笑)を見たので紹介を。

中津川から高速に乗り、開幌状態で、追い越し車線を安全走行していたら、カローラバンに追いついた。譲ってもらえるかな、と思ったが、がんばって追い越し車線を走っている。一応、後ろのオープンカーが気になっていたようだ。

この区間は岐阜県警の取り締まりが厳しい。よっぽど注意して走らないと危ないのにな、ちゃんと分かっているのかな、と思いつつ、ある程度の車間距離を保ちながら走る。数キロ一緒に走ったところで、300mほど前方の走行車線に見るからに怪しいクラウンがいるのが見えた。反射的にアクセルから足を離す。目を凝らしてみると、妙にでかい頭の2人が姿勢良く乗っているように見えた。やばいかな、と思い、左側のウインカーを3回点灯させた後、そのクラウンの後ろに入る。そのままの勢いですっ飛んでいくカローラバン。ぜんぜん、注意している気配はない。

左側の白線ぎりぎりまで寄ってみると、クラウン左側のドアーミラーが2段重ねだった。やっぱり覆面だ! と思うと同時に、クラウンは急加速して車線変更。屋根から赤色灯が生え、カローラバンを狩ってしまった。急ブレーキで走行車線に戻り、白線をまたぐぐらい左側に寄ってスロー走行するカローラバン。あわてぶりがよく分かる。オープンカーがいたはずの場所に突然、赤色灯の覆面がいたのだから、当たり前か。2台仲良く次のインターで下りていった。もし、散漫な気持ちで走っていて、そのままカローラバンの後ろに付いていたら、僕が餌食になっていたかも。

後味の悪い白昼夢だ。

10月24日

昨日は休日。土曜日に結婚式を迎える医師のたまごの友人と飲もうと、愛知・刈谷に向かった。なぜか、「結婚前に飲まなければ」と、いう強迫観念を持っていたので、土曜日の式に出席するにもかかわらず、強行軍である。別に奥さんができたところで、誘い出して一緒に飲めばいいのだけれど、やはり独身時代の飲みとは何かが違ってしまうのではないか、という考えがぼんやりあるのだ。

友人は夜まで仕事。急ぐ必要もないので、午前中はサービス出勤をして、午後2時すぎに出発。高速代を節約するため、木曽路を開幌状態で抜ける。ところどころで美しい紅葉に目を引かれる。しかし、大型トラックの排ガスで空気は最悪である。フル回転で坂道を上るトラックの圧力ある排気が、もろに顔に当たる。髪の毛がごわごわになる。

中津川から多治見までは高速を使う。実家へ向かう途中、春日井にあるアストロ名古屋店に寄る。辺りはもう暗い。ライトを付けたら右側のヘッドライトが点いていないことに気が付いた。もうしばらく街の中を走るのに、片目は怖い。時間はすでに午後7時をすぎ、何軒かのカー用品店も閉店していた。仕方ないので、実家で工作をした。

段ボールをちょきちょきっと切ってガムテープで張り付け、ヘッドライトの4分の3ほどを覆う。そして、ハイビームで走行するのだ。これだけ覆っても十分明るいから、ハイビームってけっこう強力。段ボールが熱で燃えないか心配だったが、大丈夫だった。この怪しさが素晴らしい。友人の家では、ヘッドライトを上げたまま駐車しておいた。怖くてだれも近づけまい。

午後9時ごろ、友人と和洋折衷料理を出す居酒屋へ。報道を見ていたら、どうしても食べたくなったので、牛のたたきを注文。ビールに日本酒を飲む。酒には強いヤツなので、ペースを合わせて飲んでいると、半端でない量を飲むことになるので注意しなければならない。それをちゃんと心得ていたにもかかわらず、やっぱり大量に飲んでしまった。飲み過ぎてあまりよく覚えていないが、駅前の目立つ場所で取っ組み合いをした覚えがある。友人に投げられて、吹き飛んだメガネのレンズが外れたような…。メガネのフレームがゆがんでいるから間違いなさそう。正しい酔っぱらいだ。

友人の家で意識を回復。今日は出勤である。急いでロードスターに乗り込む。こんなときに限って、東名高速が集中工事。「春日井まで1時間」という表示だったので、下道で多治見まで行くことにした。結局、松本に着いたのは、11時30分ぐらい。ばれなかったから、よしとしよう。

10月22日

 ジムニーを車検に出した。平成元年車だから、6回目の車検になるのか。

 ロードスターに比べると、極端に走行距離が少ない。主に仕事で使い、松本市内をくるくる回っているだけだから。ロードスターで1日で走ってしまう距離を10日ぐらいかけて走っている。エンジンが暖まる前に止めてしまうことが多いので、マフラーが腐りかけていないか、心配である。

 車検とともに、下回りのさび止めを依頼した。スチーム洗浄と合わせて8400円。冬に雪が降ると、行政が塩カルをまくので、放置するとさびが浮く危険がある。13年もたつ車なので、念のため、施行をお願いした。

 高速道路の散布状況はものすごい。雪の日に走り、下りてみると、ボディーに白い結晶ができて輝いている。2年ほど前はロードスターで月に5回ぐらい名古屋と往復していた。散布車とすれ違うと、「ばらばら」っと、塩カルシャワーを浴びてしまう。路面はべたべた。高速を下りると、緑色のボディーなのに真っ白になってしまう。車に乗るごとに洗車場に行き、塩を洗い落としていた。洗車代がかさむ。

 ことしはロールバーも取り付けたから、さらに念入りに洗わないと。

10月21日

 なぜか、今日の午前中はJR長野駅前にいた。長野市は今日から、市長選挙に突入したのである。異星人、田中康夫が知事になってしまい、ショックを受けた現市長が「オレの時代じゃなくなった」と半年ほど前、突然の引退表明をしてしまったから、さあ大変。「しかるべき」人たちを権力の座に推していた街の実力者たちは困った。数カ月前から、いや数年かけて選挙の準備を進めても、ちょっと有名なやつが直前になって立候補すると、一気に逆転されてしまうという悪夢が実際に起こったのだから。

 人口30万。長野県一の規模を誇り、オリンピックを開催した市である(ちなみに県人口は220万。田舎である)のに、市長の後釜に座ろう、という人がなかなか現れなかった。いや、うわさや水面下の動きはいくらでもあったのだが、なかなか表に出てこなかった。長野市は去年の知事選で、いわゆる「勝手連」の活動がもっとも活発だった場所。もし、うまい候補者を誰かが勝手に連れてきてしまったら、市長のいすをかっさらわれてしまう。しかも、あくまで「勝手」な人たちの集まりだから、つかみ所がなく、予測もできない。

 最初に立候補を表明したのは、環境NGO系の家庭教師だったか。選挙直前となって、ばらばらと立候補を表明する人が現れてきた。地方の市長選で、候補が乱立するのは極めて異例。本来なら、市長の後継者と目される人と共産党の推す人で一騎打ちとなる場合が多い。みなさん、田中康夫が当選した去年の知事選があったものだから、夢を見ているのかもしれない。

 2カ月前、ようやく「本命」と見られる商工会議所副会頭が立候補を表明。関係者は直前までドキドキだったに違いない。勝手連による候補が現れてしまったらどうしよう、と。実際、勝手連系の人たちの中には、諏訪の有名な医者に立候補を依頼する動きも直前まであった。この人は次期知事選にも出馬を依頼されるであろう人であるが「患者を裏切るわけには行かない」と今回は固辞した。

 さて、結局、今日は5人が出馬した。環境NGOの家庭教師と大阪の選挙マニア、きのこ博士、商工会副会頭、共産党関係者、である。へんてこな選挙戦となってしまった。

 フリーターである大阪の選挙マニア(28)は大阪市長選にも立候補したらしい。「田中康夫先生の言葉に感動して長野にやってきました!」などと口走るあたり、宇宙から照射された電波にやられている感じのにおいがして、すでに付いていけない。100万円ぐらいと思われる供託金はメディア露出料と考えたら、安いのかも。しかも運良く(悪く?)届け出順を決めるくじで1番を引いてしまった。彼の10円コピーで印刷したポスターが選挙掲示板の筆頭に来てしまうのである。なんてことだ。

 環境NGO系家庭教師(34)も駅前で第一声。パイプいすの上に立っての演説が手作りな雰囲気を醸し出していてよろしい。応援演説に立ったこれも環境NGO系東大出身女性の靴下に、指3本分ぐらいの大穴が開いていたのが、妙に気になった。「二酸化炭素を出さないため、自転車で移動します!」とさっそうと出発したのだが、1時間ぐらい後には街宣車に乗っていた。せめてプリウスなら形になるのに、黒煙をもうもうと吐きそうな古いバンであった。前途は暗そう。

 きのこ博士は第一声で運動員の女性を5人ぐらい後ろに従えたりして、様になっていた。その道では有名な人らしいから、ダークホースとなり得るかもしれない。

 共産党は一番早く駅前に陣取っていた。政治団体を「みんなの会」と名付けるところが最近の選挙戦法。叫ぶ主張は、どの選挙でもあまり変わり映えがしない。必ず言うのが「いままで何度も選挙をやってきたが、今回ほど手応えがあった選挙はない!」という決まり文句。「厳しい状況の中の立候補だったが、日に日に支援者が増えていくことを実感している」とも。最近の主張は「無駄な公共事業を減らして福祉にお金を回そう」である。党として「一貫性」は必要で、心棒を貫き通した態度は、感心することもあるのだが、イチローも昔言っていたように「変わらなくちゃ」。

 選挙前は田中効果のためか、異様な経過をたどったものの、極めて旧来型の組織選挙となる公算が大きい。1年前の住民たちの熱気はなんだったのか。「田中康夫が知事となってくれたから、長野県にも少しは変化があった」と後から振り返るのでは、あまりにも寂しい。