日常

11月4日

 昨日の雨で、北アルプスが雪化粧した。美ヶ原もうっすらと白くなっていたから、息抜きドライブコースもそろそろシーズンオフである。美鈴湖までのコースも、あと1カ月ちょっとぐらいで終わりか。ビーナスラインの早朝ドライブは、もうあきらめた方がよさそう。

 本格的な冬の到来の前に、アウトドアでちゃんちゃん焼きをやろうと、仲間で集まった。ちゃんちゃん焼き、とは、鮭の切り身にもやしやキャベツなどの野菜を載せ、味噌と砂糖などで作ったたれをかけて、アルミホイルでフタをして蒸し焼きにする料理である。

 松本市の薄川(すすきがわ)の橋の下に陣取り、炭火をおこす。2つ火をおこし、ちゃんちゃん焼きと鶏の丸焼きをする。真っ正面に白くなった乗鞍。背後には美ヶ原の台上を控え、なかなかの景色の中、ビールを片手に、うちわを扇いで火力を保つ。僕はちゃんちゃん焼き担当。野菜から出た水分と味噌が混ざって鉄板にたまり、ぐつぐつとうまそうな音を立てる。最初に溶かしたバターのにおいがたまらない。

 絶妙な味に仕上がったちゃんちゃん焼きと、鶏肉を食べ、全身を弛緩させて午後を過ごす。

 夜、テレビを見ながら、クランクシャフトのラッピング。ファンヒーターがある部屋でパーツクリーナを多用し冷や冷やである。勢いで、クランクをブロックに組み付けた。

 古いメタルより新しいメタルの方がオイルクリアランスが広いのだけれど…。

11月1日

 クランクシャフトのリアオイルシールなど、足りない部品をマツダのディーラーに取りに行ったら、お姉さんに「スーツを買わない?」と聞かれた。一瞬、何のことか分からず、2、3回聞き返してしまった。どういうことだ。

 説明によると、毎年この時期にスーツを販売しているのだという。渡された封筒の中の説明書きには「新生長野マツダ1周年記念」と銘打っている。「特別価格でご提供」とも。紳士服メーカーがディーラーを会場に販売会を開くらしい。フロントのお兄さんは、接客担当のため販売ノルマが多く割り振られ、もし売れないと自分で買わないといけないらしい。このご時世、車を売っているだけではディーラーでは勤まらないのか。大変だ。

 友人の結婚式やジムニーの車検に加え、ロードスターの任意保険の請求が来ているので、今、究極にお金がない。値段を見ると、仕立てスーツが5万円ぐらい。これは、かなりの出費だ。

 けれども、用もないのにふらふらと出掛けていって、店長とマニアックな話に興じ、出されたコーヒーを、あ、いつもすいませんね、などと恐縮したふりをしながら、遠慮なくがぶ飲みしてしまい、挙げ句の果てにはここから1台も車を買ったことがなく、営業成績にはほとんど貢献していないのだから、このディーラーには迷惑をかけているのである。スーツ1着ぐらい買ってあげないと、申し訳ない。ちょうど、冬用のを1着欲しかったところだし。

 だから、前向きな返事をしたのでした。

10月31日

朝、人に会うため、なぜかアルプス公園というところに行った。松本市中心部から北西に位置する、小高い丘の上の公園である。

ここは、春になると、大量に植えられた桜が美しい場所。あまりにも大量にありすぎて、ちょっと不自然な、少し下品な感じも受けないこともないけれど、松本城と並んで、松本の桜の名所である。しかも、小高い丘の上にあるから、松本城よりも1週間ぐらい満開の時期がずれる。疲れたときに行って、リフレッシュするにはちょうどいい場所。

公園は、紅葉が真っ盛り。3年いながら、紅葉の美しさに目を奪われたことはなかったが、改めて秋の色づきもいいものだな、と感心した。

会おうと思っていた人がいなかったので、公園行きは空振り。街中に下りてきて、ジムニーで松本城の近くを通り、再びはっとした。赤く色づいたソメイヨシノが目に飛び込んできた。秋のきれいさはどこか、寂しさもあり、なにか年寄りくささもあって、これまであまり気にしていなかった。松本は秋の季節も、いい。

そう思うようになった自分は、やはり昔よりも歳を取っているのかしら。

10月29日

 約25000円の請求が、クレジットカード会社から来た。

 F1に行ったとき、致命的なミスをした。友達に立てかえてもらっていたチケット代も含めて、銀行からお金を下ろしておくのを忘れたのだ。気が付いたのが金曜日の夜7時すぎ。すでにキャッシュディスペンサーは閉まっている時間である。口座は地方銀行にあるので、土、日曜日だと、県外で引き下ろせない可能性が高い。

 仕方がないので、さまざまな場面でクレジットカードを使った。高速料金、ガソリン代、おみやげ、昼食代などなど。これまで、インターネットプロバイダーの請求や、ネットを通じた通信販売ぐらいにしか使ったことがなかったので、かなり衝撃を受けた。

 だって、楽すぎる。高速道路やガソリンスタンドだと、現金で払うよりも簡単に決済が済んでしまう。特に高速だと、ハイウエーカードを使うより早い。おみやげ店でも、ちょっと機械にカードを通して、紙にサインするだけ。この場合は、機械が通信している時間が少しかかるけれど、キャッシュレスの便利さを実感してしまった。

 これじゃあ、勘違いする人もいても仕方がない、と思う。本気で、お金がなくても何でも手にはいるような錯覚を覚えます。ちょっと調子に乗れば、数十万ぐらいの買い物なら、簡単にしてしまえそう。

 明細を見たら、ガソリン代や高速代の請求が来月になるようだった。もう1回同じぐらいの額の請求が来ることになる。これをうっかり忘れて、ロードスターのパーツを調子に乗って買っていると…。

10月28日

医師の卵の友人の結婚式に出席した。友達から呼んでもらったのは初めて。こう書くと、いかにも寂しい惨め野郎に見えるけれど、親しい友人で結婚したのは、彼が一番なのだ。

結婚式というと、大散財、おまけに親族の目の前で恥ずかしい思いをしなくてはならないのだから、最近では地味婚などといって、簡単に済ませたり、入籍だけしたりする人もいる。僕は、世間並みにやった方がいい、と思っている。人生の中で、セレモニーというのは、一見、馬鹿げて見えるけれど、ここ数年、さまざまなところに頭を突っ込んでいると、けっこう重要なことであるように思えてきた。

気取っちゃって、ふふん、結婚式なんて形式だけのものはつまらない。ハートさえあれば、いい。と、ロマンチックな考えにふけりつつ、マイホームの頭金を作る方が先だ、などと極めて現実的なこともつぶやきながら、完全に2人だけの世界で思考が完結してしまい、式を開かなかったとしたら、10年後ぐらいに寂しい思いをするんじゃないかしら、と思う。あのときは、あんなに馬鹿馬鹿しいことやっちゃった、と2人、顔を見合わせて笑うのは微笑ましい光景だが、開かなかった場合、やっぱり開けば良かったと考えるのは寂しい。開かなかったのはあなたに甲斐性がないからよ、などと夫婦間に不穏な空気が流れたりして、家庭内不和の火種とならないとも限らない。

と、くだらないことを書いたけれど、友人の式は極めてステレオタイプなものだった。感動した。やっぱりいいもんだな、と思った。

写真の撮影を頼んでいない、というから、僕が引き受けることにした。当日は、1眼レフのカメラにデジカメ、ノートパソコンというものものしい出で立ちで式場に向かった。せっかくのメシも喰らう暇がないかな、と思ったけれど、式場のカメラマンがカメラ2丁をぶら下げてうろうろしていたから、何とか、すべて平らげることができた。それでも24枚撮りで6本ぐらい撮ったから、席を立ち、場内を駆け回って撮影した後、再び座ってメシを喰らい、再び動きがあったら、またすぐ立つという忙しい思いをした。そして、なぜかメモを取った。

結婚式の2次会。1次会に出席できなかった人ために様子を伝え、新夫婦の記念にしてもらおうと、印刷物を作った。ノートパソコンはこれを作るためわざわざ持っていったのである。「パーソナル編集長」というマイナーだがすばらしいDTPソフトを使えば、これくらいのものなら簡単にできる。(→これ。友人は了という名前)

ここの雅スポみたいなノリにしようかなとも思ったけれど、2人にとっては一生の思い出の1つとなるかもしれないから、まじめに作った。一生懸命書いたメモがここで生かされるのだ。1次会終了後、礼服に白ネクタイのおめでたルックで、ピンク色の袋に入った引き出物と、でかいカメラ、かばんを手に名古屋の街をうろつき、目に入ったのがあるイタリアンなカフェ。アイスコーヒー1杯頼んだだけなのに、1時間半ぐらい粘った。しかも、こっそりコンセントも拝借した。ごめんなさい。

画像ではカラーだが、実際はプリンター代わりにファクスを借りて印刷したから、モノクロ。40枚コピーして、2次会会場へ。思いの外、喜んでもらえた。さすがに疲れたので、2次会の写真を大量に撮影する気にはならず。周りは医者ばかりだから、あまり話が合いそうもなかったので、高校時代の友人と思い出話にふけったのだった。

大量に飲み、食い、幸せな2人を見せつけられて、おなか一杯。ごちそうさま。

10月24日

昨日は休日。土曜日に結婚式を迎える医師のたまごの友人と飲もうと、愛知・刈谷に向かった。なぜか、「結婚前に飲まなければ」と、いう強迫観念を持っていたので、土曜日の式に出席するにもかかわらず、強行軍である。別に奥さんができたところで、誘い出して一緒に飲めばいいのだけれど、やはり独身時代の飲みとは何かが違ってしまうのではないか、という考えがぼんやりあるのだ。

友人は夜まで仕事。急ぐ必要もないので、午前中はサービス出勤をして、午後2時すぎに出発。高速代を節約するため、木曽路を開幌状態で抜ける。ところどころで美しい紅葉に目を引かれる。しかし、大型トラックの排ガスで空気は最悪である。フル回転で坂道を上るトラックの圧力ある排気が、もろに顔に当たる。髪の毛がごわごわになる。

中津川から多治見までは高速を使う。実家へ向かう途中、春日井にあるアストロ名古屋店に寄る。辺りはもう暗い。ライトを付けたら右側のヘッドライトが点いていないことに気が付いた。もうしばらく街の中を走るのに、片目は怖い。時間はすでに午後7時をすぎ、何軒かのカー用品店も閉店していた。仕方ないので、実家で工作をした。

段ボールをちょきちょきっと切ってガムテープで張り付け、ヘッドライトの4分の3ほどを覆う。そして、ハイビームで走行するのだ。これだけ覆っても十分明るいから、ハイビームってけっこう強力。段ボールが熱で燃えないか心配だったが、大丈夫だった。この怪しさが素晴らしい。友人の家では、ヘッドライトを上げたまま駐車しておいた。怖くてだれも近づけまい。

午後9時ごろ、友人と和洋折衷料理を出す居酒屋へ。報道を見ていたら、どうしても食べたくなったので、牛のたたきを注文。ビールに日本酒を飲む。酒には強いヤツなので、ペースを合わせて飲んでいると、半端でない量を飲むことになるので注意しなければならない。それをちゃんと心得ていたにもかかわらず、やっぱり大量に飲んでしまった。飲み過ぎてあまりよく覚えていないが、駅前の目立つ場所で取っ組み合いをした覚えがある。友人に投げられて、吹き飛んだメガネのレンズが外れたような…。メガネのフレームがゆがんでいるから間違いなさそう。正しい酔っぱらいだ。

友人の家で意識を回復。今日は出勤である。急いでロードスターに乗り込む。こんなときに限って、東名高速が集中工事。「春日井まで1時間」という表示だったので、下道で多治見まで行くことにした。結局、松本に着いたのは、11時30分ぐらい。ばれなかったから、よしとしよう。

10月21日

 なぜか、今日の午前中はJR長野駅前にいた。長野市は今日から、市長選挙に突入したのである。異星人、田中康夫が知事になってしまい、ショックを受けた現市長が「オレの時代じゃなくなった」と半年ほど前、突然の引退表明をしてしまったから、さあ大変。「しかるべき」人たちを権力の座に推していた街の実力者たちは困った。数カ月前から、いや数年かけて選挙の準備を進めても、ちょっと有名なやつが直前になって立候補すると、一気に逆転されてしまうという悪夢が実際に起こったのだから。

 人口30万。長野県一の規模を誇り、オリンピックを開催した市である(ちなみに県人口は220万。田舎である)のに、市長の後釜に座ろう、という人がなかなか現れなかった。いや、うわさや水面下の動きはいくらでもあったのだが、なかなか表に出てこなかった。長野市は去年の知事選で、いわゆる「勝手連」の活動がもっとも活発だった場所。もし、うまい候補者を誰かが勝手に連れてきてしまったら、市長のいすをかっさらわれてしまう。しかも、あくまで「勝手」な人たちの集まりだから、つかみ所がなく、予測もできない。

 最初に立候補を表明したのは、環境NGO系の家庭教師だったか。選挙直前となって、ばらばらと立候補を表明する人が現れてきた。地方の市長選で、候補が乱立するのは極めて異例。本来なら、市長の後継者と目される人と共産党の推す人で一騎打ちとなる場合が多い。みなさん、田中康夫が当選した去年の知事選があったものだから、夢を見ているのかもしれない。

 2カ月前、ようやく「本命」と見られる商工会議所副会頭が立候補を表明。関係者は直前までドキドキだったに違いない。勝手連による候補が現れてしまったらどうしよう、と。実際、勝手連系の人たちの中には、諏訪の有名な医者に立候補を依頼する動きも直前まであった。この人は次期知事選にも出馬を依頼されるであろう人であるが「患者を裏切るわけには行かない」と今回は固辞した。

 さて、結局、今日は5人が出馬した。環境NGOの家庭教師と大阪の選挙マニア、きのこ博士、商工会副会頭、共産党関係者、である。へんてこな選挙戦となってしまった。

 フリーターである大阪の選挙マニア(28)は大阪市長選にも立候補したらしい。「田中康夫先生の言葉に感動して長野にやってきました!」などと口走るあたり、宇宙から照射された電波にやられている感じのにおいがして、すでに付いていけない。100万円ぐらいと思われる供託金はメディア露出料と考えたら、安いのかも。しかも運良く(悪く?)届け出順を決めるくじで1番を引いてしまった。彼の10円コピーで印刷したポスターが選挙掲示板の筆頭に来てしまうのである。なんてことだ。

 環境NGO系家庭教師(34)も駅前で第一声。パイプいすの上に立っての演説が手作りな雰囲気を醸し出していてよろしい。応援演説に立ったこれも環境NGO系東大出身女性の靴下に、指3本分ぐらいの大穴が開いていたのが、妙に気になった。「二酸化炭素を出さないため、自転車で移動します!」とさっそうと出発したのだが、1時間ぐらい後には街宣車に乗っていた。せめてプリウスなら形になるのに、黒煙をもうもうと吐きそうな古いバンであった。前途は暗そう。

 きのこ博士は第一声で運動員の女性を5人ぐらい後ろに従えたりして、様になっていた。その道では有名な人らしいから、ダークホースとなり得るかもしれない。

 共産党は一番早く駅前に陣取っていた。政治団体を「みんなの会」と名付けるところが最近の選挙戦法。叫ぶ主張は、どの選挙でもあまり変わり映えがしない。必ず言うのが「いままで何度も選挙をやってきたが、今回ほど手応えがあった選挙はない!」という決まり文句。「厳しい状況の中の立候補だったが、日に日に支援者が増えていくことを実感している」とも。最近の主張は「無駄な公共事業を減らして福祉にお金を回そう」である。党として「一貫性」は必要で、心棒を貫き通した態度は、感心することもあるのだが、イチローも昔言っていたように「変わらなくちゃ」。

 選挙前は田中効果のためか、異様な経過をたどったものの、極めて旧来型の組織選挙となる公算が大きい。1年前の住民たちの熱気はなんだったのか。「田中康夫が知事となってくれたから、長野県にも少しは変化があった」と後から振り返るのでは、あまりにも寂しい。

10月17日

いつものショットバーで飲み、タクシーで帰宅したのが何時だったんだろう。それほど飲んだわけでもないのに、F1観戦の疲れが残っているのだろうか、かなり酔っぱらった。F1観戦の疲れ、というよりは、月曜日の夜勤でとっても眠かったので仕事場のソファで気を失って朝を迎え、天気が良かったのでドライブに出掛けたのがいけなかったのかも知れない。

出勤しなければ、と起きようと思ったら今日は休みであることに気付く。まだ、地球の自転を感じたので床から抜け出すことができない。外は雨だし、ドライブにも出掛けられない。一日ごろごろしているしかなさそうだ。

そういえば、こうして家でごろごろしている休日、というのはしばらくなかった。群馬に行ったり、サーキットに行ったり、F1観戦したり、と休みごとに何らかのイベントが盛りだくさん。充実していたけれど、エンジンをいじる時間はなかった。このサイトのメインのコーナーも、1カ月近く更新していなかった。昨日あわてて更新したけれど、待っていた人がいたら、ごめんさい。

「久しぶりにのんびりできるな」と考えたら、コンロッドが磨きたくなってきた。むくっと起き出し、作業服に着替え、グラインダーを片手に作業をする。顔が映るぜ。

やっぱり疲れがたまっているんだろう、作業が終わったら再び気を失った。暗くなりだした頃に起きる。マツダのディーラーに出掛ける。エンジンスタンドにシリンダブロックを固定するボルトをもらいに行ったのである。

ボルトは見つからなかった。代わりに中古のKONIのショックをもらってきた。オーバーホールして使おう。

今日の一日をそのまま表現したような、眠たい文章になりました。

10月15日

F1観戦は宿確保が最大の壁だった。

「F1に行こう」と甲府の友人に誘われたのは、今年の夏前ぐらいだったか。チケットの販売状況をホームページで見て、まだ売れ残っていたのを確認し、行くことに決めた。チケットの購入は友人にまかせた。

ところが、9月中旬になっても「まだ買っていない」という。すでに年間優勝が決まっていたので、キャンセルが相次いで、チケット屋での値段が下がると踏んだらしい。友人は1度行ったことがある、と言うし、本当に行けるのかしら、と心配になりながらも、とにかく待っていた。

友人が買ったチケットは入場料9000円と、指定席32000円の計41000円の場所だった。「D」というブロックで、ホームストレートから1コーナーに入る、非常に良い場所だった。しかし、安く買うと言っていたわりには、定価のままの購入であった。

相談の電話が掛かってきたのは、先週のこと。「宿を探したのだけれど、あまりまともなところがない。明日までに入金すれば泊まれる場所が1カ所ある」とのこと。値段を聞くと1人20000円。普段はモーテルらしい場所なのに、だ。さすが国際イベントF1。特に宿泊関係は「F1価格」になってしまう。

41000円の上に2万円も払いたくなかったので、鈴鹿市の隣、亀山市に住んでいる人に電話をしてみた。すると、「何もかまえないけれどOKよ」という返事。やはり持つべきものは心優しき知り合いたちである。

そして、F1出発前の金曜日。快く泊めてくれたお礼を持っていこうと、仕事をさぼって食材を買いに出掛けた。信州ならではのうまいもの、と言えば、きのこ鍋しかあるまい。知り合いに少し分けてもらうようお願いし、さらに松本平中を回ってきのこをかき集める。

松本電鉄上高地線の終点、新島々駅近くのおみやげ屋や、町の観光協会が運営している地場産センターを回り、かき集めた。クリタケ、ヒラタケ、シメジなどなど。さらに、塩尻の知り合いのところへ寄り、僕の中では1番うまいと思うジコボウを分けてもらう。おみやげ屋では、3、4000円で売っているやつを、冷凍だが、大量にもらった。

ジムニーの助手席に積み上げられたきのこたちを見て、1人でほくそ笑んだ。いまだかつて、こんな大量のきのこを鍋にぶち込んだことはない、と。

その日の夜は、友人Kの仕事先での送別会だったので参加する。いったい、いつ仕事をしているのか、自分でも不思議なくらいだ。土曜日は、甲府の友人と午前6時すぎにJR岡谷駅で待ち合わせをしているので、ちびりちびりとやっていた。

いつもと同じようにしこたま飲んでしまって意識不明となり、携帯の振動で目覚めたのが午前6時前。完全に遅刻である。

友人Kが「翌日、朝に東京に帰る」と言っていたのを思い出し、電話でたたき起こして、迎えに来てもらい、岡谷に向かう。岡谷インターに午前6時半すぎ着。甲府の友人のスープラに乗り込み、鈴鹿を目指す。午前11時着。フリー走行は音しか聞こえなかった。予選はシューマッハの走りに興奮する。

夜、9時半ごろ、亀山の知り合いの家に到着。大量のきのこを開けたら、家の人が目を丸くしていた。東海地方ではなかなかお目にかかれるものではない。とにかく、きのこを鍋に全部ぶち込んで、煮込む。本当は、水を入れずに肉を焼き、野菜を投入してから、日本酒を注ぎ込み、野菜から汁が出てきた頃にきのこを加えると、濃厚なスープとなるのだが、この日は昆布だしの中に放り込んだ。5、6種類のきのこが投入された鍋は壮観である。肉は豚肉がうまい。野菜のメインはやはり白菜。それにしょうゆで味付けしただけである。

煮上がったきのこたちの醸し出した味の、なんとうまいことか! 4人では食べきれないかな、と思っていた、ただならぬ量の鍋だったのに、見る見る間に胃袋に収まっていく。具を食べ尽くした頃に、うどんを入れる。きのこだしの汁で煮込んだうどんは、もはや別の食い物である。大量の具を食べた後のうどん3玉も、瞬く間に終了した。

亀山の知り合いも、「これまで食った鍋のなかでも1、2を争うね」と絶賛。きのこのうまさに開眼したようであった。まつたけの味、なんてお金を出してまでのものじゃない。雑きのこのうまさに比べれば。

連日の飲みで体力が消耗していたが、これで回復。

10月12日

いつも日付が変わる前後に行くのに、昨日は仕事場の先輩とともになぜか8時台にいつものショットバーに行ってしまった。マスターびっくり。松本産のセロリをもらってあったので、小脇に抱えていた異様な姿にもびっくりしたんだろう。手渡すと「ちょうどよかった。買おうかと思っていたところ」と、喜んでくれた。本当に「ちょうどよかった」かどうかは分からないが、心からあげて良かったと思わせるリアクションがうれしい。客が集まるのは、1杯500円の明朗会計でお得だから、というだけではない。

マスターに惹き付けられた夫婦が、10時すぎに入ってきた。なにやら、必死にホテル探しをしている。紅葉の時期だからか、観光地・松本のホテルには空きがない。10軒以上は電話をしている。「泊まる場所がないのかな」と思っていたら、チェックインしたホテルの門限が11時ということが気に入らないらしい。曰く「松本に来たら、マスターの店で明け方まで飲まないと気が済まない」。結局11時になってしまい、新しい場所も確保できていないのに、チェックアウトしてきてしまった。

いろいろ探して宿は確保。よっぽどこの店が気に入っているとみえ、「今日は朝まで飲んでいく」。以前、松本に来たとき、開店したばかりのこの店で、いろいろな酒や食べ物を出してもらった挙げ句、「今日のお代はいい」とマスターが言ったらしい。よっぽど意気投合したんだろう。

話を聞いていると、民事再生手続き中の企業の関係企業の責任者という。民事再生のあおりを受けて、この会社単独では利益が上がっているのに、明日倒産するらしい。

悲惨な話をしているわりには悲壮感がない。いろいろ身の上話を聞いているうち、やくざな家系であることが分かる。しかし、この人は「堅気」らしい。実際、入れ墨は入っていないと言う。

こういう人の話を聞くのが一番面白い。ある街のぼったくりバーに入ってしまい、請求されたのが1人8万円。5人だったから40万円の請求書だったそうだ。この種の店では1人1人別の部屋に呼び出すのだそう。他の人は払ったのに、自分は頑として、入場料の数千円以外払わなかった、という。もちろん、身内の素性は明らかにしていない。あまりにも心棒の入った態度に、「こんなにがんばったのはお前が初めてだ」と、親分に呼び出されたという。

「自分はどんなふうになっても稼いでいけますからね」と、威勢がいい。ここには書けないような仕事も、実際やっていたという。「まじめにやっている人につらいことをいわなければいかん」と、民事再生企業に対する恨み節を延々と並べ、こちらも魅力的な話に聴き入っていた。

晩飯も喰らわずに、セロリやチーズといったものだけ食べて、午前2時。帰りにカップラーメンを買い、仕事場で喰らう。

翌日1日仕事に身が入らなかったのは言うまでもない。