10月2日

 朝5時すぎは、まだ暗い。「台風一過」の言葉どおり、天気が良くなりそう。るんるん気分でロードスターに乗り込もうと、さっそうとドアを開けた、その途端、脳みそがフリーズした。

 浸水し放題で、車内が洪水状態だったのである。ついにやってきてしまったか、10年もたつと仕方がないよね、と苦笑した顔の筋肉が次の瞬間引きつった。洪水のど真ん中にFreedomの設定変更用のパソコンが鎮座していたからである。

 間違いなく壊れてしまったと思われる。とりあえず、ずぶぬれのまま電源を入れるのは自殺行為なので放置しておく。こっちが感電するかもしれない。

 6年も使ってきたパソコンだから、これで引退かな、と考えつつ運転席側のエスケレートシートに手をかけて脳天に衝撃が走った。全体がぐちょぐちょに濡れている。濡れたスポンジの中にすっぽり座るようなものだ。でも仕方がない。

 台風による大雨の余韻で、あたりは湿気まみれ。フロントガラスも外側、内側の両側がぐちょぐちょに濡れている。仕方がないな、と左手をエアコンのスイッチに伸ばして再びショックを受ける。エアコンは壊れているんだった。

 さんざんな思いをしながら夜明けの街を走り始める。ヒーターをがんがんにかけて少しでもカーペットが乾くように暑いのを我慢した。

 御浜町は、三重県の最南端である。地図を見てみると分かるが、実はとても細長い県なのである。高速道路が伊勢の手前まで。後は下道しかない。

 勢和多気インターで降りるまではすぐである。そこから国道42号で尾鷲へ向かう。あと70キロ弱の案内表示が。これで驚いてはいけない。その尾鷲から熊野までも同じくらい距離があり、御浜町はその次なのである。ひたすら走るしかない。御浜町は名前の通り、まっすぐに伸びる砂浜がとても美しい町だ。まだ夏のような日差しにエメラルドグリーンの海が映えて輝く。

 4時間ぶっ通して走って、なぜか普通よりちょっと早い気がするが、御浜町のミカン畑に到着。1時間ほど過ごしてとんぼ返りである。

 同じ道から帰るのも芸がないので、国道169号を走ることにする。この道は、すれ違いもままならないような細い曲がりくねった道である上、すさまじい「秘境」を走っていて、この世の物ではない何かに出くわしそうな雰囲気を醸し出していた。台風の大雨で道路が崩れていないか心配だったが、対向車が走ってきたから通行止めではないのだろう。

 ひたすら無心に走る。道は途中からかなり良くなり、良いペースでダムの横を通る道を駆け抜け北上する。本当なら橿原あたりから名阪国道に乗って帰るのが早いのだろうが、津に用事があったので、途中で真東に向かう。津で用事を済ませて、国道23号へ。街の渋滞がいやだったので、最後だけ名古屋高速に乗った。

 結局メータ読みで600キロを走破した。あ、ファイナルが狂っているから630キロぐらいか。道中、ずっと乾かしていたパソコンは、電源すら入らなかった。