我が家の近くに今、テント村が出現している。迫害から逃げてきた難民、というわけではなくて、チケットを取るための徹夜行列なのである。
なぜか、松本市では毎年夏、小沢征爾が総監督を務めるサイトウ・キネン・フェスティバルという音楽祭が開かれるのだ。日本でも指折りの演奏家が集って、オーケストラやオペラの演奏をする。現在、松本市ですったもんだの問題が起こっている市民会館は、今の市長が小沢征爾に指揮棒を振らせたくて(あ、小澤征爾は棒を持たないんだった)、145億も使って「オペラハウス」を建設している、と噂されている。
なんだか最近、きな臭くなってきた音楽祭であるが、ウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任することになっている小澤征爾と同様、人気は高まる一方らしく、明日のチケット発売日を前に、すでに行列ができているのだ。早い人は1週間前からテントを張って、野外生活をしている。今日の午後には150ぐらいあったから、夜に入って会社帰りの人も加わり、200以上にはなっていると思われる。
並んででもオーケストラの演奏を聞きたい、という人たちだから、悲壮さはまったくない。たぶん、深夜となった今でも酒盛りが続いているんだろう。たぶん、クラシカルな音楽談義をしているのだから、僕とはまったく住む世界が違う人たちだ。
徹夜で野外で音楽談義は「よい子」に見られて、徹夜で峠で車談義は「悪い子」に見られる。言い換えれば、日本に音楽文化はあっても車文化はない。ひがんでしまう僕は、やはり間違っているんだろうか。