6月23日

 松本から北へ30キロちょっと行くと、大町市がある。黒部ダムや立山黒部アルペンルートがあるといえば、ちょっとは分かる人がいるかも知れない。長野五輪で感動を生んだジャンプ台のある白馬村の南、と言った方が分かりやすいか。松本は雪国じゃないのだが、大町は雪国である。人口3万人強。安曇野の真ん中の穂高町に人口で抜かれてしまったから、寂れつつある、と言っても良いかも知れない。

 その大町市で市長選が実施されることになった。過去2回は現職が無投票で当選しているので、12年ぶりになる。何と、こんな小さな市に4人も候補が立ってしまった。現職と、環境問題シンクタンク研究員、陶芸家、元新聞記者、となんだか怪しい経歴が並ぶ。

 現職の他3候補は「現職の多選を阻止!」との狙いで出馬している。ちょっと考えれば分かることだが、候補がたくさん立てばそれだけ票が割れることになり、後援会組織がかっちりある現職が有利になるに決まっているのである。そんな自明なことはたぶん、どの候補も分かっているのであろうが、それでも出馬しちゃうところに、大町に住む人の気質が現れているのかも知れない。

 みんながお山の大将を気取りたがる。出陣式では、名ばかりで実態がないと見られる訳の分からない団体の代表がずらずらと並び、それぞれがあいさつをしなければ気が済まないから、出陣式なのか何なのか、よく分からない状態。抜きんでたリーダーシップを発揮する人がおらず、それぞれが自分の主張を勝手に言い張って団結せずに、こぢんまりとしたまとまりを作ってしまうのかも知れない。ある地元紙が社内で割れてそれぞれ他の陣営に入り込んでなにやら暗躍している、との噂もあって、かなりディープな、どろどろした気質が背景にはある。

 選挙、というのは人間模様がいろいろ見え隠れするから、観察していると案外面白いことがある。保守派の現職と、日本共産党はたいてい仲が悪い。この選挙でも、現職陣営が共産党の推す候補の中傷ビラ(内容はあながち間違いじゃないから中傷ではないかもしれないけれど)をばらまき、名指しされた方はそれに過敏に反応して、ことあるごとに反論して、もう泥仕合。機会あるごとに「謀略には負けぬ」などと怒りを剥き出しにしていたら、相手の思うつぼなのにねえ。

 期間は1週間。後半になってくると、それぞれが焦りだしていろいろな「策」を弄するようになる。さて、どんないやらしさを見せてくれるのか。