9月3日

 長野県知事選挙の市町村別得票数を眺めているとなかなか面白い。マニアックでつまらない話で恐縮なので、興味がない人は読み飛ばしてください。

 一番関心があったのが、松本市の得票数だ。田中康夫が対抗馬の3倍ちょっと票数を取っていた。これは、対抗馬の関係者にとってはショックな数字なのである。今回は、選挙にめっぽう強い有賀正市長の後援会がものすごい運動をやったはずなのに、惨敗してしまったのだから。負けず嫌いな市長のことだから、田中康夫のことを「人気取りばかり」とでもののしって、負けを認めないのだろうけれど。が、市民会館建設問題でしつこく住民の反対運動が起こったりしているから、もう70を超えたことだし、次の市長選には出ないかもしれない。どんな顔をしているのか見てみたい。

 前回の選挙では、田中康夫は市町村のうち「市」ではほぼ対抗馬を抑えていたのだけれど、町村になると分が悪かった。都市に住む人と、少し離れて住んでいる人とで明確に投票の仕方に差があったのだ。けれども、今回は対抗馬が勝ったのは本当に山奥の村だけ。組織選挙が批判されていたから、地元県会議員や首長が住民にお願いしてもあまり聞かれなかったこともあるけれど、それだけじゃない。やっぱり田中康夫に対する期待感が見え隠れする。

 それが明確に分かるのが木曽郡だ。岐阜県の中津川へ抜ける谷なのだけれど、幹線道路である国道19号しか交通手段がない。生活道路にもなっていて、ここにトラックがびゅんびゅん走っているから、地元の人たちは、木曽川の反対側に道路を造って欲しい、というのが悲願なのだ。これまでの知事はあまり乗り気ではなかったのだが、田中康夫は「住民の命と安全を守るため道路はぜひ必要だ」とやった。だから、同じ人口規模の他の町村と比べて、田中の得票率が高い。

 諏訪湖から流れ出した天竜川が浜松に向かって流れていく天竜峡も同じである。県庁から200キロ近くも離れているからこれまでの知事はあまり訪れなかった。ここも本当に小さな村ばかりで、対抗馬の地元にも近いから組織型の対抗馬の得票が集まりそうなのだが、田中康夫はことあるごとにここら辺の恵まれない道路環境を引き合いに出して語っていたし、今回、バンザイの時に乾杯したお茶もここで作られた物。ここまで気を使っているとやはり住民も応えるようで、南信濃村という村の得票率は松本市並みで、圧勝であった。

 一方で、まったく反対側、新潟の糸魚川に抜ける谷にある小谷村。ここは大地の裂け目のような地形で、いつでも土砂災害が起こる場所である。治山、治水の公共事業で膨大なお金が使われているところでもある。田中康夫はうっかりか知らないけれど「無駄な公共事業を見た」と発言して、それがマスコミに報じられてしまった。今回の選挙ではやはり対抗馬が勝っている。

 個々人の考えは多様だけれど、市町村単位でざっくり切ってみると、その地域の人が田中康夫のことをどんなふうに思っているのかが見え隠れして面白い。