午前4時ぐらいになぜか目が覚め、ネットを見ていたら、サイレンの音がかすかに聞こえた。電話で確認してみると、松本城の西の「西堀」という地域の飲食街で火事だという。ジムニーで出掛ける。
我が家から4キロは離れているのに、薄明るくなった空に灰色の煙が太く空に立ち上っているのが見えた。現場に行くと、消防車やら野次馬やらがぎっしり。道路にはい回る消防のホースをまたぎながら近づくと、木造のアパートが派手に燃えていた。この地域は昔栄えた歓楽街。狭い路地のような道路が入り組み古い建物が密集する地域だ。アパートの1階にはスナックや居酒屋がひしめいている。これはまずいかな、と思った。
派手な放水が続けられたものの、木造の建物は次々と延焼していく。周りには着の身着のまま焼け出された人や、パジャマ姿の野次馬、消防団員、警察官でごった返す。アジア系の外人がやけに多い。中には、知っている人が見あたらないからか、涙を流しながら震えている人も。警察官の一部は、放火事件であることを警戒して、野次馬たちを次々とフィルムに収める。火事独特のものが焦げた、いやなにおいが辺りに漂う。放水が柱や壁に当たる音、何かがはじける音、消防の無線で通信する音、消防署員同士が大声で指示を出し合う声など、さまざまな音声が一緒くたになって、騒々しい。ようやく煙が収まってくると、かろうじて焼け残った柱や、鉄製のテラスの骨組みが、無惨な姿で現れてくる。3時間ぐらいして、ようやく火災が鎮圧された。
結局アパートなど10棟が焼け、3人が亡くなった。2年半前にも計9軒が全半焼した連続放火事件に遭遇したことがある。昨日まで確かにそこで営まれていた日常生活を、炎が一瞬で燃やし尽くし、人命まで奪う。火事の現場はいつ見てもむなしい。