場所の力、というものが確かに存在する。
計測できるような具体的な力ではない。そこですごしていると、緊張もほぐれ、力をもらうことができる。「癒やし」という言葉は氾濫しすぎて安っぽくなってしまったのでなるべく使いたくないのだが、殺伐とした日常を送ってすり減った心を回復させることができる。やっぱり、そんな場所は、人を集める磁力のようなものを持っていて、周波数の合った人間がわらわらと集まってくるのである。
富山の二上山にあるお店はまさしくそんな場所だ。白川郷や五箇山で有名な合掌造りを、五箇山近くの福光町の奥地から移築した建物。地区の関所も兼ねていたといい、他の合掌造りよりも一回り大きい。
築200年。最近の建築ではあり得ないぶっとい柱に巨大な梁。3階建て。コーヒーを楽しみながら、天井を見上げるだけで時間がつぶせる。1杯のコーヒーで何時間長居しようが、頻繁に水をついで圧力をかける店ではないので、ゆったりとすごせる。まあ、「裏メニュー」が豊富なこの店を訪れて、コーヒー一杯だけ飲んで帰る、という芸当は不可能なのだが。
土曜日に、仲間とわいわいやった後、ビールを飲みながら深いトークをマスターと繰り広げた。味覚と視覚と語りが心に染みわたる。とりとめのない話の中、マスターのこの言葉が心に残る。「ここはいろんな意味で『レストハウス』ですから」
現代に生きる人間には、こういう時間が大切かもしれない。