しばらく来ないかもしれない、などという思いを抱き、後ろ髪を引かれつつ去ったはずなのに。
信州に行ってしまった。しかも仕事で。やはりこの時期の信州は格別であるので、行きたくて仕方がなかったから、仕事を作って行くことにした。塩尻と長野に用事を作ったのである。本当は電車で行かないといけないのだが、ロードスターで向かうことにする。9時の約束であるので、かなりマージンを取って、5時すぎに開幌状態にして出発した。秋めいた気候の日の出直後の空気は気持ちがよい。
尾張旭から多治見に抜ける道の途中、田んぼ道をショートカットしようと思ったら、道を青空色デミオがふさいでいた。T字路になっており、ブレーキをかけ損ねて直進し、ドアンダーを出して水路の土手に車体を落としていた。強引にバックしようとして、辺りはタイヤスモークが充満している。
運転手はおねえさんであった。だから、というわけではないけれど、放置するわけにもいかず、ロードスターを止めて、「押しますか」と申し出る。とりあえず、車に乗ってもらい、ドアンダーのまま切れたままになっているステアリングを元に戻してもらってバックさせる。助手席のドアを勝手に開けて、Bピラーを肩で押す。2、3度思いっきり押したら素直に脱出した。
こんな場合、陳腐な物語であれば、
「お名前は…」
「名乗るほどのものじゃございません」
などと、頭蓋骨の裏がかゆくなってくるようなセリフとともに愛が芽生えるのかも知れないが、現実は甘くない。約束の時間があるのだから、邪魔であった車がどけばさっさと出発するしかないのである。「それじゃ」という言葉を残してロードスターに乗り込み立ち去る。
多治見から中央道へ。少々時間が早かったので伊那インターで下り、国道153号で塩尻に向かう。9時、レタス畑が広がる洗馬という地域に到達した。松本に4年間いたけれど、この地域はあまり来たことがなかったので、ちょうどよい機会であった。
名古屋でさえ秋のような涼しさであるのだから、松本ではまぎれもない秋の気候であった。北アルプスの稜線は早朝から湧いて出てきた雲に隠れて見えないけれど、空気の透明度が高くて白馬の方まで見えそうなほどであった。
仕事を終え、奈良井川の堤防に沿って松本に向かう。ちょいと用事をすませて、行ったのはかつてのホームコース。一往復だけして、長野に向かう。
せっかくだからと、近くの松本インターではなく、麻績インターに向かって筑北の風景を楽しむ。なかなか良いコースである。7月には「次はいつ来るのだろうか」と深刻そうなため息をつきながら走ったものだが、1カ月で再び戻ってきてしまった。感慨もへったくれもない。
長野で用事をすませて、再び松本へ。せっかくだから、良くしてくれた人たちに顔を出して、いつも一緒に酒を喰らっていた松本の仕事場の人と韓国料理を食べて、帰宅。
総走行距離は550キロぐらいか。明日も朝から仕事である。今の残っている体力から考えると、電車で行った方が良かったかも。