8月1日

 1階の事務所になぜか蟻がいた。窓際の壁を伝って、サッシのレールに入り込んでは引き返していく。見ることはできないがレールの隙間になにかごちそうでも入っているのかしら。

 まてよ、と思う。建物は2階立ての鉄筋コンクリート造りである。蟻なんか入ってくる隙間があるわけがない。蟻を観察していると、どうも壁と床の間が割れていて、そこから入ってきているらしい。この建物はどうも地盤が悪い場所になっているらしく、事務所の前にある掲示板が地盤沈下で傾いて一度直していると聞くから、建物も少しゆがんでいるのかもしれない。

 蟻の侵入を許しているわけにはいかないので、対策を取ることに。「蟻の巣コロリ」である。殺虫剤のスプレーで目の前にいる蟻を殺すだけだが、こいつは蜜のかぐわしい香りがぷんぷんする毒を巣まで持って帰らせて巣ごとやっつけるという、非人道兵器である。

 窓枠のところに置いてしばらく観察していると、なにも知らずにやってきた蟻が突然異物が置いてあることに一瞬とまどっていたものの、蟻の巣コロリの入り口でしばらく迷った挙げ句に中に入っていった。中のえさを発見すると、思わぬごちそうの発見に喜んだのか、狂喜乱舞のごとくえさの上を右往左往した後、じっとえさを食べている様子だった。

 次に来た蟻は迷うことなく入り口に入りえさにたどり着く。あっという間に10匹ほどが蟻の巣コロリの中に入ってえさを堪能。ものすごい効き目だ。

 その場で動かなくなることもなく、しばらくすると外に出て壁を下って消えていく。巣に戻って報告でもしているのかもしれない。次々に蟻が表れては消え、を繰り返していた。

 すぐに効いたことが分からないことが、この兵器の非道さなのかもしれない。