宿直中、夜の仕事場でF1を見た。大荒れに荒れたレースについて今回は問題じゃない。レースの間の鬱陶しいCM。その中のトヨタのCMを見て、正直腹が立った。
CMでトヨタは「エコ替え」なる行動を消費者に呼びかけている。菊池桃子が家の白熱電球を電球型蛍光灯に切り替えている。ここまでは良い。電球型蛍光灯は、白熱電球に比べて同じ明るさで消費電力が3分の1から4分の1程度、寿命は6倍ほどらしい。今は価格が10倍するので導入時のコストはかかるが、消費電力と寿命も含め、トータルコストでは2分の1以下になるという。ただし、まだ使える電球は大切に使って、切れて交換するときに選ぶ方がよりエコだ。
で、関根勤がこう言う。「まだ乗れるけど燃費のいいほうに替えたよ」
まだ乗れるけど
これってトヨタにとって致命的なCMなんじゃないだろうか。こんな台詞を言わされた関根さんがかわいそうだ。
環境問題はいろいろな側面がある。そりゃあ、燃費の良い車に乗っている方が距離当たりの二酸化炭素の排出量は減るに決まっている。が、車を造るにはCO2を排出しなければならないわけで、乗り捨てた車を解体、リサイクルするにももちろん、環境負荷がかかる。伏木富山港周辺を見れば良く分かるが、日本の「まだ乗れる」中古車はいま、ロシアなど海外へ運ばれていって使われている。輸出にもCO2は排出されているし、喜んで使う人が海外にいるわけだから、ようするに新しい車を生産すればその分、環境負荷は増えていくのだ。
環境問題は「3R」という言葉で表されている。環境負荷の抑制(Reduce)に再使用(Reuse)、そして再資源化(Recycle)。たぶん、この順番に大事なんだと思う。日本ではリサイクルがもてはやされているが、「リサイクルさえすれば無駄遣いはOK」というのでは元も子もないし、リサイクルするためにごみを回収して工場に運び、再び資源とするのにエネルギーを使っているのでは本当に環境負荷が下がっているのか分からない。
なので、まずはごみを出さないような取り組み(富山県では今、スーパーのレジ袋が有料化されてレジ袋の使用量が減っている。これは正しい)から初めて、環境負荷をかけて造ったモノはなるべく大事に使い、空き缶とかペットボトルぐらいはリサイクルしましょう、というのが正しい姿なのだと思う。
さて、「エコ替え」ははっきり言って「3R」の中にも入っていない。そもそも10km/lの車から20km/lの車に乗り換えたからって、車の製造から使用、解体までのトータルで見た環境負荷が下がっているのかって素人では分からない。
ネットをあさっていたら、米誌「ワイヤード」が検証をしたらしい。大元のソースでなく引用先からのコピペで信義は定かでないが、学術論文を書いているわけじゃないからそのまま引用してみる。
—–以下引用—————————-
新車のプリウスと中古車、どちらが環境にやさしいか?
−「中古車かもよ?」というのが結論です。
根拠に並べた数字を見てみましょう。
(1)プリウス製造に必要なエネルギー 11万3000 BTU
(イギリス熱単位、1BTU=約251.996カロリー)
(2)11万3000 BTUをガソリンに置き換えると 1000ガロン (3785リットル)
(3)製造コストに追いつくのに必要な走行距離 4万6000マイル (7万4029.824km)
(4)平均的ドライバーが4万6000マイル走行するのにかかる所要時間 3年以上
(5)製造コストに追いつくのに必要な走行距離(1998年型トヨタ ターセル*の場合) 10万マイル (16万934.4km)
(6)平均的ドライバーが10万マイル走行するのにかかる所要時間 7年以上
* ガソリン1ガロン当たりのマイル数が27 mpg(市街)&35 mpg(高速道)の車なら車種問わずOK
** 1年当たりの走行距離は年間平均13500マイル(2万1726km)の比率で算定。
—–引用終了—————————-
要するに、「まだ使える」車を捨てて、プリウスが納車された時点で、4万6000マイル走るのにかかるのと同じぐらいの燃料がかかっていて、すでに3年以上走っただけの燃料を使っているのと同じだ、ということだ。
元ビートルズのポール・マッカートニーに、トヨタからハイブリッド車「レクサスLS600h」が贈られた。日本からの移送に船便でなく航空便が使われ、環境団体から「船でなく空輸を選んで余分に排出されたCO2は、この車で地球を6周するのと同じ」と批判されたという。
「エコ」を人に自慢したいなら、徹底的に理詰めで攻めてほしい。決してファッションにしてほしくない。さらには、金儲けのネタにエコを持ち出してほしくない。CO2の排出量の側面だけを強調して「まだ乗れるけど」なんてCMをやる企業は、そのうち足下を見透かされる。「これって詐欺じゃ」と批判されてもおかしくない。だって、環境イメージで売っておきながら、やっぱり利潤追求、20世紀型の大量生産大量消費から抜け出していない、ということなのだから。まだ割り切って「うちの車は他車と同じ品質なのに安いし、維持費も安いんです」とエコノミーを強調してくれた方がすがすがしい。
やっぱり、エコを強調したいなら、プリウスなんて造っていないで、その時々の規制で成立したロードスターをはじめとする製品は、なるべく壊れないようにメンテナンスしてぎりぎりまで使えるよう部品供給やディーラーでのサポート体制を維持しつつ(むしろこうしたサービスから利益を得てほしい)、生産から解体までの環境負荷をカタログに載せてどれが「エコか」を示してほしい。で、CMでは関根さんにこう言わせてほしい。
「大切に乗っていた車が乗れなくなったから、なるべくエコな車を選んだよ」