7月28日

 「弱冠、19歳! 川村かおりのオールナイトニッポーン!」

 深夜ラジオから聞こえた破裂音系の底抜けに明るい声がまだ鮮明に耳に残っている。

 中学3年生の冬、深夜放送を聞くブームが訪れた。THE ALFEEの坂崎幸之助のNoru-Soruを聞いてビートルズにどっぷりはまったし、デーモン小暮や大槻ケンヂのオールナイトニッポンも良く聞いた。土曜日、松任谷由実のオールナイトニッポンが午前3時に終わると、悲しいかな、名古屋のCBCでは演歌全開の「歌うヘッドライト」が始まってしまったのだが、AMのループアンテナをカーテンレールの上に置いて、1242kHzに合わせると、深夜になったこともあって東京の電波が入って第2部の川村かおりのオールナイトニッポンが聞こえてきたのだ。

 オールナイトニッポンの川村かおりはとにかく底抜けに明るいキャラクターで、「15の夜」に聞いていた僕からすると、少し年上のロシアのハーフで男っぽいお姉さんがラジオで暴れているのがとても楽しかった。ロシア語講座とか、サケ茶漬けにミルクを掛けたり、キムチご飯にドンパッチを載せたりと、リスナーから寄せられた意外な食べ物の組み合わせを体当たりで試す「食はクリエイティブだ」のコーナーとか。ほとんど忘れかけていたことが次々と思い出される。陽気に笑っていたお姉さんというイメージしかない。番組が終わるころには外が明るくなっていた。

 弱冠19歳が20歳になるときには、日本とロシア、どちらかの国籍にしなくてはならない、ということで結局日本を選んだといった話が出るなど、結構シリアスな内容だったことも思い出す。明るくしゃべる裏に、国籍の問題などで屈折した、陰のようなものがちらりと見えるところが、若い男子としてはたまらなかったのかもしれない。

 ちょうど「翼をください」のカバーを出した時期だと思うのだが、正直、まじめくさってロックを歌うから「歌は下手だなあ」と思って、CDを買ったりすることはなかった。いつしか、番組も終わり、ウオッチしつづけることもなく、その陽気な男っぽいお姉さんのイメージのまま。週刊誌のグラビアとかで「まだ活動しているんだ」と確認するぐらい。そして、ちょっと前に乳がんと闘病していることを知り、ショックを受けた。そうこうしているうちに今回の訃報だ。

 青春の一こまを彩ってくれた人がこんなに早くなくなってしまった。それにしても今年は、ダメージを受ける訃報が多い。