7月25日

 名古屋コーチンを喰らった。

 地鶏の中では秋田の比内鶏、鹿児島の薩摩鶏と並び、日本の3大地鶏とされている。いわば、地鶏の元祖であり、最近の地鶏ブームでさまざまな地方から新たな地鶏が生まれつつあるが、それは新しくつくったものであって、ルーツではないのである。

 名古屋コーチンは特に認定条件が厳しい。100%純系の血統でないと名古屋コーチンとは銘打てない。多くの地鶏は生産性の問題からブロイラーとの50%の合いの子だったりする。さらに、愛知県畜産総合センター種鶏場から供給された種鶏を、名古屋周辺地域で生産しないと商標が使えない。センターは愛知県内しか種鶏を供給しないので、名古屋コーチンと銘打って販売されていれば(本物なら)本当に名古屋周辺で生産されたものなのである。もっとも名古屋での生産よりも、尾張地方と三河地方での生産が多いのだが。

 明治時代に尾張藩の元藩士が「武士の商法」の一環として手がけて、もともといた鶏と、中国の鶏を掛け合わせてつくったのだという。昭和30年ごろまでは、今の岩倉市を中心に、どこの農家も副業でコーチンを飼育していたのだが、欧米から肉用としてブロイラー、卵用として白色レグホンが輸入されて、大きくなるまでが短いので一気に養鶏場を席巻、一時は名古屋コーチンもいなくなる危機に瀕したのである。

 けれども数年後には「ブロイラーではかしわの味が違う。コーチンの方がこくがある」と、良さが再認識され、再びコーチンの肉の需要が高まったのだが、さて、県の試験場に300羽ほどしか残っていない。しかも、当時のコーチンは卵を多く産むように改良されいたから、ブロイラーなんかに比べると体が小さい。こまった、ということであちこち探していたら、富山県に残っていたのだという。かけ合わせて、今のコーチンが復活した。ブロイラーが50、60日で出荷されるのに対し、コーチンは150日ぐらいかかるのだから、それだけコストがかかっている。儲けようと思ったら、つくることができない鶏だという。

 そんな地鶏をたらふく食らったのである。刺し身に串焼きに、この地方では「ひきづり」と呼ばれるすき焼きで。

 刺し身は、鶏肉を食べているという感じが本当にしなかった。高級なお魚の刺し身を楽しんでいる感じ。串も、皮がたいそう脂っこい外見なのだが、いざ口にしてみると、意外とあっさりしていてうまい。

 牛のすき焼きであれば、肉をちょちょいと食べるともうお腹がいっぱいになるのだが、コーチンは大量に肉を喰らってもお腹にもたれない。しょう油と砂糖だけで薄味なのだが、肉の味だけでどんどん食べられる。素晴らしいのが肉から出たスープで、脂でぎらぎら光っているのだが、あっさり。白菜やらネギやらが季節はずれの野菜であるのが残念だったが、エキスをたっぷり吸い込んで、玉ネギの甘味、ゴボウの風味にコーチンのこくがミックスされた絶妙な味であった。

 やっぱり、本当にうまい鍋は野菜が主役になるのである。イノシシ鍋然り、キノコ鍋然り。