なぜか、いろいろなことに巻き込まれる仕事なので、明日は「シンドラーのリスト」作り。
今は、江南市という、愛知県でも碧南市とどっちがどっちだか分からないぐらい、存在感がないところに住んでいる。一宮市の東側、岐阜県境にあるベッドタウン。なんとも特徴がないのが特徴なのだが、最近、おもしろい会社に出かけた。
江南特殊産業という会社。ここの得意技は自動車のダッシュボードやドアトリムの表面の型作り。電気鋳造(電鋳)という技術を駆使して、自由自在に作る技術を持っているのだ。
型作りの流れはこんな感じ。メーカーからダッシュボードの形のデータと表面の皮が送られてくる。コンピュータでその形を起こして、そのモデルの上に皮を張る。いわゆるシボ張りという技術である。職人さんが、ぴたっと完璧に皮を張っていく。
それの表面に電気が流れる加工をして、40度の水槽にどぼんと放り込まれる。そこで、モデルに厚さ5ミリぐらいのニッケルのめっきを施して、モデルをはずすと、モデルの表面に張った皮がそのまま転写された「型」ができあがる。これをダッシュボードの表面の成形に使うのだ。
ここまでならどこの会社でもできるのだが、この会社がすごいのはこれから。電鋳に一工夫加えた「ポーラス電鋳」という特殊技術を持っているのだ。
普通、ダッシュボードの表面のようなプラスチック成形は型をあたためて材料となるプラスチックの粉末みたいなものを流し込んで溶かして成形するのが一般的。が、ここが作る型には光に透かすとようやく見えるぐらいの小さな穴が無数に開いている。空気だけを通すので、裏側を真空状態にすると、材料を吸引することができる。なので、型ではなくて材料側をあたためてシボを転写できるのだ。
型をあたためるのと比べて14分の1のカロリーで加工ができるというからすごい技術。さらに、生産にかかる時間もかなり短くなるというから、省エネ、低コストの車作りには欠かせない技術になりつつある。
社長のセルシオの助手席に乗せてもらい、試しに「この部品の型も江南製ですか」と聞いたらそのとおりという。工場のショールームに行くと、インプレッサやらサーフやら、カムリやらのダッシュボードがずらりと並べられていた。フォードが採用してから海外メーカーの採用が相次いでいるという。実際、工場内を見学したら、韓国車の新型車のダッシュボードの型が作られていた。車種はもちろん、教えてくれない。秘密だらけの工場なのだ。
シボ張り技術は国内でもトップクラスらしく、例えば東京モーターショーとかで出品されるコンセプトカーの内装の皮張りをしたりするという。おもしろいと思ったのは、新型車が発売されるとき、発売の1年ぐらい前にすでにパンフレット用の写真撮影があるそうな。だから、パンフレットに載っている新型車のダッシュボードとかは、大量生産品ではなくて、職人さんがモデルに皮を張ったものでとりあえず撮影するという。ここら辺は業界の関係者に聞かないとまったく分からない世界。
で、ここの会社の重役さん曰く、コストを抑えていかに質を高くしていくか、という最近の車産業のトレンドの中で、やっぱりトヨタが一番の技術を持っているらしい。
強い企業にはちゃんと理由がある。