6月20日

 我慢の限界だった。ケリを付けなければ、ならぬ。

 生え放題生やしてしまった髪の毛は、会社員であるならばすでに越えてはならない一線を越えてしまっていた。くっちゃくちゃ、ぼさぼさなのは言うまでもなく、耳は完全に隠れ、しかも後頭部は量が多いのか膨らんでしまう。そんなピッコロヘアーも、マッシュルームカットだいビートルズだい、長髪は反体制の象徴だい、などとポリシーを持っていればなんとなく格好良いかもしれないが、好んで伸ばしているのではなく、それは無精なだけであって、放置状態であり、さらに鳥の巣状態なのだから、それはマッシュルームでもなんでもなく、長さも中途半端であって反体制などと、格好良いことも言えないのである。

 つい最近まではそんな異様な髪の毛も放置していても気にならなかったのだが、梅雨に入って状況が一変した。今年ほど梅雨らしい梅雨も近年なかったことで、しかも台風まで3つも来ちゃった。不快指数80以上、湿度が高い重苦しい空気がいつまでも続いた。そんな空気に包まれた僕の多量の髪の毛は、多量に湿気を吸って、吸いまくって、冷蔵庫のキムコ状態。常に風呂上がりのような状態で、まとまりもせずにライオン状態。湿気の上にまさしくキムコのようにさまざまなにおいまでも吸っていそうで我慢も限界に達したのである。

 で、行きつけの床屋に電話した。「明日、朝イチでお願いします」

 午前9時ぐらいから切ってもらえるとすれば、10時すぎには終わる。そのまま何食わぬ顔で出勤してしまえば良い。前夜に仕事をしていたときには髪の毛がぼっさぼさだったのに、翌日出勤したときには短かったら、一目瞭然で仕事をさぼって床屋に行ったことはばれてしまうのだが、そんなことでとやかく言われる職場でもない。もし、ボスかだれかが文句を言ってきたら「気合いを入れたら縮んだ」「恐怖体験によって引っ込んだ」などと適当なことを言っておけば済んでしまうから良いのである。

 「じゃ、7時半に来て」。一瞬耳を疑った。そんなスペシャルな時間から髪を切ってもらえるとはまったく想像もしていなかったのだが、特別にやってくれるのだろう。こちらのわがままでそんな早い時間から営業を始めさせてしまうのは大変心苦しかったのだが、それは素直に感謝してお礼の言葉を考えつつ、翌朝7時半前に床屋に到着したら、すでに先客がいたのでずっこけた。いつもの開店時間だったらしい。

7時半7時半7時半

 しかもこの床屋、1500円で切ってくれる。先に来ていたオヤジと比べて倍は手間がかかりそうな僕の頭も同じ料金である。得した気分。