5月31日

 熊丼を喰らった。

 なぜか梓川の奈川渡ダムにある東京電力のPR施設で、同業他社の友達と会ったので、昼飯を一緒に喰らうことにした。

 トンネルばかりで何もない山の中、どこで食べようかと話し合い、とりあえず街へ向かおうと、国道158号を下っていく。友人が怪しげな食堂で車を止めた。

 古ぼけた食堂。スキー場の食堂のような雰囲気の場所で、入り口で目を引いたのが「熊脂あります」の看板。なんだそれは、と心の片隅で考えつつ、中に入り、壁にかけてあるメニューを見ると、「焼き肉定食」「うどん、そば」「トンカツ定食」「カレーライス」と並んで、「熊丼」「猪しし丼」の文字。「しし」がだぶっているんじゃないか、と思ったがそんなことはどうでもよく、熊の肉が食えるらしい。値段は1500円。なかなかの料金である。

 友人は「そばが食べたいんだけれど」と弱気なことを言うので、猪丼を注文してあげた。猪は松本市内で猪鍋を食べさせてくれる店があり、そこで2、3度食べているから、どんな味か知っている。野生の動物は「味」というよりは独特な「臭み」がある。猪は味噌でチューニングされた鍋でも、少し臭かったので、どんぶりにしたら露骨ににおいそうだな、と思う。

 熊は臭くないのか、と言えば、ある人から聞いた話だと、熊肉をもらってきて、鍋にぶち込んで煮たら、とんでもなく臭いにおいが漂って、とても食えたものじゃなかった、とのこと。鍋は洗っても洗ってもにおいが取れず、捨ててしまったという。よっぽど強烈なにおいだったんだろう。肉が少し古かったのではないか、とその人は言っていた。

 どんな強烈なものが来るんだろうとドキドキしながら待つと、シラタキやタマネギとともに、熊の肉が醤油ベースでおおざっぱに煮られてごはんの上にぶちまけられて出てきた。ブロック状に切られた熊肉は、黒っぽく、同じくブロック状の脂肪がへばりついていた。見るからにしつこそうである。

 一つを箸でつまんで口に放り込むと、それほど臭みもなく、ぱさぱさした感じでやわらかい。試しに友人の猪を喰ってみると、ゴムみたいに固く、しかも獣臭が強烈である。食べられないことはないけれど。

 熊の方がましであったか、と言えば判断に迷う。脂肪ブロックが強烈にくどく、口の中一杯に油が広がる感じ。お茶で流し込みながら、何とか飲み込んで平らげた。

 熊と猪を喰らったから、今度は鹿だな。