5月30日

 「そでどうしたの。真っ黒よ」。近くの中華料理屋で、ピリ辛のたれがかかった唐揚げの定食を喰らい、レジで会計をすませたら、中国生まれとみられるこの店のお母さんに、中国なまりでこう指摘された。見てみると、確かに真っ黒である。また、やっちゃった。爪も真っ黒だ。

 休みだったので、まずジムニーのタイヤの交換をすることにしたのだ。乗鞍スカイラインでは数日前に雪が1メートルほど降ったそうだが、さすがにこの時期までスタッドレスタイヤのまま放置されているジムニーを見ていると不憫に思えてくる。おもちゃと侮っていたわりには出動回数の多い電動インパクトレンチを駆使し、ちゃちゃっとタイヤを交換する。

 天気はそれほど良くはなかったが、ロードスターで美ヶ原へ上がることにした。そういえば、今シーズンになって、美鈴湖より上に登っていなかったのだ。

 8K6Kのバネはやはりうねった道には固すぎるらしく、途中で何度か車が飛び跳ねた。サーキット「も」走ることができる車にしちゃった宿命だから仕方があるまい。ぎりぎり我慢できる突き上げだから、足の仕様は当分このままになるだろう。

 武石村側に下りてビーナスラインを走ろうと思ったら、道が通行止めであった。欲求不満を感じながら同じ道を戻る。それでも、ブレーキパッドがそろそろ限界で、常に悲鳴を上げている状態だから、戻って正解だったのかも知れない。

 下界に下りて洗車をする。そして、フロントのブレーキパッドを交換することにしたのだ。

 エンジンの載せ替えは2回したけれど、ブレーキをいじったことはいままでなかった。エンジンは動かなくなっても危険はないが、ブレーキが壊れると危険だ。自分だけではなく、人を傷つけてしまう可能性がある。だから、これまでブレーキはディーラーに任せていた。

 と、言い訳がましいことを書いているけれど、エンジンだって走行中にブローしたら危険なわけで、ブレーキ整備に手を付けなかったからと言って、お利口さんなわけではない。ただこれまでにいじる機会と気合がなかっただけである。

 初体験のブレーキ整備。フロントをジャッキアップして、タイヤを外し、キャリパーのスライドピンを1本ゆるめただけで、パッドが剥き出しにできた。意外と簡単なのね。パッドは案の定、残り1ミリもなかった。

 シムや金具、針金のようなバネは錆びてボロボロになってしまっていたのだが、替えがないのでパーツクリーナーを噴いてそのまま再利用する。金具やスライドピンはグリスアップしておく。ピストンのブーツをめくると、中は錆びもなくきれいな状態。グリスを押し込んでおく。

 ピストンを戻そうとして困った。ウオーターポンププライヤーで戻した、という話を聞いていたので軽く考えていたのだが、ピストンに傷を付けてしまいそうだし、幅が広くてつかみづらい。ピストンを戻すSSTを買っておけば良かったかな、という考えがちらりと脳裏をよぎる。

 キャリパーを眺めていて、何か使える道具はないか、と考えた。何かが使えそうである。何だろう、としばらく考えて、そうだ、と膝を打った。

 バルブスプリングコンプレッサーである! あれさえ使えば、簡単に押し込めるじゃないか。古いパッドとリア用のパッドをあてがっておき、コンプレッサーをセットしてぎりぎりと締め上げていくと、簡単に引っ込んでいった。

バルブスプリングコンプレッサー

 意外と簡単だったパッド交換。グリスアップもして、ごきげんな利きになるかと思い、車を動かしてブレーキを踏むと、まったく踏み応えがなく、ペダルが床に付きそうなぐらいだった。へこへこっと何度か踏んでやると、少しだけ踏み応えが出てきたものの、遊びが大幅に増えてしまっている。奥まで踏めばちゃんと利いているので、危険ではないが、ちょっと気持ち悪い。エア抜きをすれば直るのかしら。

 ついでに2週間前に燃え掛かったオルタネーターのVベルトを交換。こんな作業を普段着でやって、その服装のまま中華料理屋へ行ったから、お母さんに不審に思われるのである。