江南市の布袋というところに行って、町医者と会ってきた。出た学校のわりには地域に埋もれてしまっている、と息子らから言われているらしい。何十年も前から変わらない建物の個人医院で、地域の人たちを診てきた人である。
町医者だから、町のことを実によく知っている。総合病院のようにわんさか患者(というよりは病院をサロン代わりに使っている年寄りが多いのだが)も来ない。じっくり話を聞くタイプの医者である。だから、あちこちの家の事情がよく分かる。
町についていろんな話を聞いた。ある名家の盛衰記といったところなのだが、不特定多数が見ているような場所で書けるような話ではない。明治維新から昭和恐慌、そして現在と、3つの時期に分けて理路整然と話すのはさすがインテリと言ったところ。映画や文学の引用を交えながら、実に面白くいろいろな話を聞いた。時間にして2時間半。
医薬分業が進んできたが、そこの医院は診察室のわきに薬が山積みにしてある。患者が出入りするときに、手を伸ばせば届く距離に薬が置いてある。「不便だから」と処方せんを書くことなく、その場でお薬を渡しているという。手の届かないところにしてくれ、とお役所から何回も注意されているらしい。
地域に埋もれて、それでもポリシーを失わないで診療を続ける医師の姿。この時代になって、その姿が最先端のような気がするのは気のせいだろうか。