朝から部屋の外で「ヂィヂィ ヂィヂィ」と鳥が鳴く声がするな、と思っていたら、外出しようと外に出ると、ツバメがアパートの廊下を飛んでいた。なんかの拍子にアパート内に飛び込んできたらしく、外に出られないので朝からパニクッていたらしい。
上昇していったので、階段を上がる。アパートは3階建てで僕の部屋は3階なので、上への階段は屋上に通じるだけ。屋上のドアを開ければ出て行けるかな、と思ったが、あいにく鍵がかかっていた。窓を開けるも、外に侵入防止だかのプレートが設置してあって、ツバメがくぐり抜けるには、クリアランスが厳しい。3次元で動く鳥にとっては、アパート自体が定置網ばりの袋小路になっている感じだ。
追い立てれば下へと下りていって、1階の入り口から出ることができるかしら、と手すりに止まっていたツバメを脅かした。すると、3階フロアーには行くのだが、そこから追い立てるとまた上へ上がるの繰り返し。はっきりいって、ツバメのすばしっこさは素手での捕獲は無理。
とりあえず仕事があったので、ツバメを放置して外出。戻ってくると、相変わらず「ヂィヂィ」とパニクッた鳴き声が聞こえてきた。
このまま出られないと死んじゃうかも、と部屋に戻って何か捕獲するものがないか考える。針金ハンガーをぎゅっと円形にして、大きめのレジ袋をガムテでセット。モップの柄に取り付けて即席たもの出来上がり。
ツバメが止まっているところにそーっとたもを近づけるが、すぐ逃げる。まあ、当たり前だ。屋上出口から3階、3階から屋上出口と逃げる。もう2階下に行けば外に出られるのに。
屋上出口から3階、3階から屋上出口を、何回も繰り返してまどろっこしくなって、ぶんぶんと即席たもを振り回して逃げるツバメを追い立てる。だんだんこちらもむきになってきて、助けようとしているのか、いぢめようとしているのか、よく分からなくなってきた。巧妙に逃げるので汗だくになっても捕まらず。即席たもだから、すぐゆがんだりして使い勝手も悪い。
付き合っているのもばかばかしくなってきたので、一計を案じた。いくらツバメだって飛びっぱなしというわけにもいくまい。階段の踊り場に立って、たもで3階への通路をふさぎ、ツバメがどこにも着地できないようにした。
ぐるぐると頭の上を飛び回るツバメ。さっきからの追いかけっこでばてていたらしく、力なく地面に着地したが、すぐに追い立てて再び飛ばせる。やっぱり、いぢめているみたいだ。
ツバメがスキを付いて僕をかわし、3階方面に逃げていった。見ると僕の部屋の電気のメーターのところに止まっている。じっとこちらを見つめるツバメにちょっとずつ近づく。ツバメにしたら、敵が徐々に近づいてくるんだから生きた心地がしなかったろう。即席たもの射程に入ったところでそっと近づけていき、目の前まで差し出したところで、ばがんとたたきつけるように振ったらうまいこと袋の中に入った。
袋の中で観念したかのように抵抗をやめたツバメ。いや、食べるわけじゃないんだけど。1階のアパート入り口でたもを広げるとしばらくして飛び立っていった。
野鳥の幼鳥が巣から落ちて地面でもがいていたとき、一番やっていけないことは拾ってしまうことなのだという。もしかすると、親が来てえさを与え続けていたかもしれない。拾ってえさをやろうとしたところでほとんどの場合で食べずに死んでしまう。猫とかに食べられてしまうのも、生物の世界の摂理で「かわいそう」と思うことがお節介なのだって。水たまりにはまっていたら棒か何かを使って外に出してあげるぐらいのことは良いかもしれないが、そのまま放置しておくのが幼鳥のためでもあるという。
ふと、そのことを思い出したが、僕はただうるさいツバメをアパートから追放しただけなのだから、このケースには当てはまらないでしょう。