市場のおっちゃんに昔、自動車部でラリーをやっていた人がいる。今でもランクルやジムニーに乗り、山道に繰り出すぐらいの車好きで、僕のマニアックなエンジン話の内容が分かるだけでなく、うれしそうに聞いてくれる。つい、仕事の話から脱線して、今作っているエンジンについてあれこれと話してしまう。
久しぶりに一緒に昼メシでも喰らいましょうと、誘った。午前1時ごろから活動している市場のおっちゃんにとっては夜飯に当たる。市場ビル最上階の卸売会社の共同食堂に行き、いつもただでもらえる食券で日替わりのランチを選ぶ。
今日は、トロの刺し身であった。通常なら1枚で1食食べられるのだが、このトロは2枚の食券を要求する。つまり高級品なのである。その高級品を選んで、ほくほく顔でいたら、おっちゃんがさらにもう2枚の食券を出して「天ぷらもくれー」。もちろん、1人で2皿喰らうのではなく、僕に1皿くれるのである。結果、お盆の上にはトロと天ぷらの盛り合わせとみそ汁とご飯とが満載になり、いつも軽い昼メシを喰らっている僕にとってはかなりヘビーなものとなってしまった。
「食べられましぇん」などと野暮なことは言ってはいけない。ありがたく頂戴し、胃袋がオーバーフロー寸前でも笑顔で詰め込んで、ごちそうさましなければならぬ。ま、社会人で人付き合いしていれば良くあることである。
トロもさすが市場の人間のための食堂で出される本格的なトロであり、とってもうまいのだが、とっても脂っこい。おいしいのはだいたい2切れまでで、それ以上は惰性で食べるしかないのだが、この日は天ぷらもあって、かなり口の中が脂ぎっしゅになって胸焼けもする。でも笑顔でおっちゃんと話しながら楽しいランチタイムを装う。車談義自体は楽しいのだが。
そうして仕事場に戻ると、春の定期健診であった。自慢ではないが、松本時代は再三にわたって健康診断を拒み続け、一度も行ったことがない。主義主張で行かないのではなく、ただ面倒くさいからなんだけど。
行きたくはないのだが近くにいる上司に名指しで「絶対行け」と言われれば行かざるを得ない。何が嫌かと言えば、昼メシをあれだけ大量に喰らった状態で体重を量らねばならないのである。
ベスト体重からはほど遠く、だんだんと重くなっていっており、ライトウエイトな車を愛する人間にとっては大変不本意ながら、さらに増えていた。昼メシの分だけ増えている、ということではなさそうである。