3月7日

 モノの価格ってなかなかどうして不思議なところがある。特に市場に通っていたりすると、値段を決める要因ってコスト+αという単純なものではないことが分かる。

 例えばイチゴの値段。ひとくくりにイチゴといってもいろいろ種類がある。女峰、とよのか、章姫、栃乙女などなど。西のとよのか、東の女峰と言われた時代もあったらしいが、新興勢力の章姫、栃乙女あたりがシェアを食っているという状況。新興勢力は味が良くて日持ちがするから、当然人気が高まるわけだ。そんなことはどうでもいいのだが、だいたいスーパーに並ぶと、498円、398円、298円という売られ方をする。

 イチゴは一番果、二番果、三番果などと順々に出荷のピークを迎えるから、出荷量に波がある。品種ごとの波によっては高騰したり、暴落したりするのだ。今シーズンは、例の無登録農薬問題があって、イチゴの苗がかなり捨てられたらしいので、もともと少な目の生産量。そして、寒さが重なって、クリスマスあたりは異常な高値が続いていた。

 その高値はだらだらと続いて、ひな祭りのケーキ需要まで続いたのだが、スーパーで並ぶ価格は、高くて498円。少し無理して398円。安い時期に特売があったりすると298円。何でも、スーパーの広告の目玉商品として扱われているらしく、逆ざや、損当たり前で特売してしまうのだ。市場の関係者曰く「イチゴは市場で買うよりスーパーで買う方が安いことが多い」。それだけ、この時期の客引きにイチゴの価格が大切なんだって。

 そのとばっちりを喰らうのがミカンである。小売店はイチゴで損した分、市場でミカンを買いたたいて、そして店頭で高く売ろうとする。ミカン農家は怒る。市場のおっちゃんは両方にいい顔しなければならないから、大変である。

 特に、イチゴはミカンのように日持ちしないから、短期決戦で売り切ることが勝敗を分けるのである。イヨカンとか、デコポン、ポンカンあたりもとばっちりを受ける果物である。

 魚でもしょっちゅう逆ざやが発生する。港で仕入れる値段より、市場で売る値段の方が安いのである。運んできたトラックの運賃にもならないどころか、売るだけ損、ということがよく起こる。特に、最近は飲酒運転厳罰化で夜の街で魚の消費が減っているから、どうしても市場での値段は安くなってしまう。浜ではこれまで通りの値段で買ってくる。素人は、ここら辺の価格決定メカニズムについては首を傾げるしかない。

 市場だけでもなく、おかしな値動きをしたものがある。トイレットペーパーとティッシュペーパーである。昨年秋までは、スーパーなどでの安売りで、トイレットペーパーは12ロール178円程度だったものが、11月を境に上がっていき、今では最低248円。ティッシュペーパーは安くて5箱258円ぐらいだったものが、348円、398円となっている。

 表向きの理由では、古紙の値段が上がっているから、再生紙を使うトイレットペーパーの値段が上がっているということになっている。確かに、リサイクルが流行って在庫がだぶつき、値段が暴落した少し前と違って、今は古紙の値段が上がっているのである。中国がテレビやパソコンを大量に造っている、その梱包のための段ボール原料として大量に国内から輸出されているから。本を製本した後のみみの部分のような、くず紙の値段が上がっている。

 しかし、ティッシュペーパーは「パルプ100%」と書いてある。古紙なんて入っていない。それなのに、同じように値上がりしている。

 値上げの背景をひもといてみると、どうも各社が相次いで出荷価格を上げているらしい、ということが分かる。製紙メーカー側は「これまで特売で安く売られすぎていた」と主張する。この時期のイチゴと同じように、スーパーやドラッグストアの目玉商品として扱われていて、もはや価格はメーカーの用語で言うところの「再生産が不可能なレベル」にまで落ち込んでいるそうな。上げないと、つぶれるから企業としては上げざるを得ないんだって。

 ま、個々の企業の判断として、値段を上げているのなら、文句はないのだ。だって安く売っているメーカーの製品を買えばいいのだから。けれども、どのメーカーも同じように値段が上がっている。これっていわゆる「価格カルテル」というんじゃないだろうか? 公正取引委員会の怖いお役人さんが怒らないといけないケースかもしれない思うのだが、手入れがないところをみると、100円やそこらの微々たる違いだし、本当に安かったから、放っておくということなんだろう。

 ものの値段ってあやふやなものなのかもしれない。そういえば、1万円札だってみんなが価値があると信用しているから通用しているだけの話。経済すべては砂上の楼閣のような、危うい状態で成り立っているのかもしれない。