はだか祭で何かあった訳じゃないのだが、慢性的な運動不足の中、1時間も肉弾戦を繰り広げたものだから、疲れ果てて1週間ぐらい疲労が残った。まあ、祭当日に午前2時まで飲んでいる僕がいけないんだけれども。
結論から言うと、祭は良いよ。各地の有名な祭の地元の人で「祭のために1年間暮らしている」という人がいるけれど、分かる気がする。
国府宮のはだか祭は「厄」を落とす祭である。ざっくりと言ってしまえば、近隣の人々の厄をかき集めて、その年に選んだ「神男」になすりつけるのが祭の意味である。
裸になる人の大部分が厄年の男。地元から裸で出発し、国府宮まで歩きで向かう。国府宮に参ることができない人たちの厄をのせた「なおいぎれ」を巻いた笹を担いで、道中で酒を振る舞ってもらったり、交差点で暴れたりしながらえっちらおっちらとやってくる。今年は3月の暖かい日だったけれど、普通は2月の厳寒期である。参道にたどり着いたところで、ほとんど戦意を喪失し、そのままバスに乗って風呂&宴会場に向かうというパターン。
僕はといえば、ずるをして参道脇の建物でふんどし姿になって出て行くだけである。横は入りみたいでなんだか申し訳ないのだけれど、これも仕事なのだから仕方あるまい。
なぜか、稲沢市長に下帯を巻いてもらう。「神男を目指すのはお前だけだから、解けないように」と、とびっきりがっちりと締めてもらった。はっきりいっておしりの穴が痛い。これでもか! ってぐらいにぎゅっと締め付けられ、ばっちり気合が入った。あまりにも強く締めたため、座ることもままならない感じ。座ろうとすると、おしりの穴が圧迫され、やばい。
はだかで外に出ると、参道にいる人たちの注目を浴びる。裸男が着けているはちまきとかの布きれは「なおいぎれ」といって、お守りとなるのだが、それを求めて、わらわらと寄ってくるのだ。逃げようと思ったら参道に行けばよい。この日ばかりは参道が裸男の聖域となる。服を着ていて中に侵入すると周りの酔っぱらいどもから怒声が浴びせられるのだ。
それにしても裸になって布きれを持っているだけで、女子高生から声をかけられるこの不思議な感覚。僕自身に興味があるわけじゃなくて、布が欲しいだけなのだが、かなり気分が良いものである。
市役所職員の笹の奉納に合流し、参道をスラローム走行。まっすぐ走ればあっという間に到着する距離なのだが、東の壁に向かい、西の壁に向かい、ふと思いついたように担いでいる笹を地面に立てたりと、とにかく暴れまくる。裸で笹を担いでいるわけだから、肩や首は擦り傷だらけとなる。
奉納を終わらせると神男登場までにしばらく時間が。本来なら、寒風吹きすさぶ中、ふるえながら酒を飲んで待っているのだが、僕はとっとと建物の中の控え室へ。本当にずるばかりしている。
日が暮れかかったころ、ようやく神男が登場し、裸男が触ろうと殺到する「もみあい」となる。
もみあいに欠かせないのが、潤滑油代わりとなる水。乾いた肌同士でこすれ合ったら、それだけでけがをする。冬の夕方に裸で表をうろうろしていて、水をぶっかけられたら、それこそ寒くて死にそうになるのだけれど、こればかりは仕方がない。
水をかける役割を担うのが「手おけ隊」。国府宮近くのある地区の人たちだけができる特別な仕事である。笹奉納の列の最後尾にやってくる。手に持ったおけを肩の上に高らかに掲げて登場するのがとってもかっこいい。
手おけ隊は参道わきにある水場で水をくむと、走って裸男に突進してきて、神男を待ちわびる裸男たちに水をぶっかける。
「寒い」と水から逃れようとしたが、それを狙うかのように水をかけられた。開き直り、一人では寒いものだから他の裸男とともに「わっしょい、わっしょい」と叫びながら水を浴び、神男が登場するのを待つ。10回以上水を浴びていると、突然、裸男たちが一方に動き出した。
「神男だ」と直感し、走り出す。すでにもみ合いが始まり、裸男の集団は右へ左へと一つの固まりのように動き回る。意を決して裸男たちをかき分けかき分け、神男に近づこうとする。が、突然ものすごい圧力を受けて外にはじき出された。
再挑戦するも今度は下帯をつかまれて、外に引きずり出された。もう一度入ったが、疲労でひざががくがくと震えて思うように進めない。たぶん神男は2メートルほど先にいるに違いないのだが、神男は低く身をかがめていて、その回りを過去の神男たちがボディーガードをしているものだから、一度もその姿は見えない。
一度仕切り直す。もみ合いが境内へと通じる「楼門」の中に入ったところで後ろから付いていく。が、神男に近づくことは不可能と悟った。あらゆる方向からもみくちゃにされ、自分が思う方向に進むことができない。
進むどころか神男から離れてしまい、手おけ隊の水すら届かない場所になり、体が乾いてしまって、周りの裸男とこすれあってとても痛い。行き場所がなくなってつぶされ、息すらできない瞬間も。圧死するかと思った。集団に翻弄されるままになっていると、神男はゴール地点である儺追殿に到達してしまった。
「あーげーろっ。あーげーろっ」。裸男たちが手を振り上げて叫び始めた。ここまで1時間近く。外野の僕ですら、ものすごい疲労を感じているのに、裸男たちの圧力の真ん中にいた神男は死にそうになっているに違いない。「もういいから早く上げてくれ」と思いつつ、同じように叫んでいた。
叫びながら儺追殿を見つめると、裸男たちの間から、建物の中へ引きずり上げるられる神男がちらりと見えた。神男経験者が腰にひもをまきつけて儺追殿から飛び出し、裸男たちの上を走って神男にすがりつき、建物の中に引っ張ってもらうのである。儺追殿に到着してから10分以上かかってようやく収容された。神男を見たのはこの瞬間だけだった。
祭りは終了。神男に触れなかった悔しさを感じながら、とぼとぼと参道引き上げていると、参拝客から拍手を送られた。自分も祭のスペクタクルをつくりあげた裸男の一人。そう実感し、胸が一気に誇らしさと充実感で満たされた。
裸になってしまえば日ごろの肩書は関係なく、皆平等。自分も主役の一人となれるのが、はだか祭の気持ち良さだと分かった。もしかして、また来年もやりたくなるかもしれない。