3月14日

 気持ちよく山道を走っていたら、突然エンジンが「へごへご」と妙な回り方をしたので「んっ!」と思ってメーターを見たら油圧が0。やばい、と、とっさにクラッチを切ったら、ぷすんとそのままエンストした。

油圧が0

 トラブルが起こると、一瞬の間にいろいろ考えるものだ。ごろごろっと車を滑走させながら、とりあえずキーをオフにして、いろんな考えが頭を巡った。

 クラッチを切ったらエンストしたところを見ると、油圧センサーではなく、本当に油圧がなくなったみたい。いくら、リッター500キロのオイル食いエンジンとはいえ、いつもより多く減ったとしてもまだ2.5リッターは残っているはずだ。オイルがなくなった、ということではないから、考えられるのはエンジンブロー。普通のツーリング走行だったので、信じられなかったが、ただならぬ事態がエンジンに起こったことは確か。

 ごろごろ転がりながら「このまま転がって富山に戻れるか」とふと思うが、場所は岐阜の山の中。まだ太平洋側だ。無理だ、というか、早く車を路肩に止めろよと気がついてちょうど止められるスペースがあったので、駐車した。文章にすると長いが、3、4秒、100メートル程度の滑走である。

 車から降りると、エンジンからかすかにオイルっぽいミストが立ち上っていた。ああ、エンジンブローだな、とふと大穴が貫通したブロックを想像したが、ホイールを見たら、オイルまみれでどろどろに汚れていた。「え?」と思ううちに、だらだらっと車の下からオイルが流れ出してきた。

 あっと、気がついて車を前からのぞいて原因を察知。オイルクーラーの配管がすっぽ抜けたのだ。

 HKSの大きめのオイルクーラーを付けている。オイルフィルターは移設するタイプ。で、最近、いろいろいじったときに、アルミ製のフィッティングがぱっくり割れてほとんど真っ二つになりそうだったのを発見した。とりあえず、今は大丈夫だけれど、早く交換しなきゃね、ともう少し配管の取り回しが良くなるように角度の違うやつを注文しなければ、と思っていた矢先のすっぽ抜け。甘く見ててはいけませんな。

 鈴鹿サーキットに講習を受けに行って、その帰り道。東海北陸道はチェーン規制がかかっていたので、国道306号を北上し、関ヶ原から高速に乗ろうとしていた。が、調べてみるとチェーン規制が解除されている。じゃ、やっぱり東海北陸道から帰ろうと思ったが、微妙に西にずれていて、そのまま高速に乗るのも馬鹿馬鹿しかったので、下道を郡上八幡に向かって走っていたのだ。

 池田町とか大野町とか街中のごちゃごちゃしたところを走って国道256号へ。山の中に入って洞戸村を快調に通過中のトラブル。

 富山から積載車で来てもらったら、片道2時間半はかかる。夜、用事もあったし、ここで何とかしたい。オイルクーラーはオイルフィルターが付いている位置にアタッチメントを取り付けて配管してあるので、アタッチメントを外し、代わりにオイルフィルターを付けて、オイルさえ入れれば走ることができる。

 工具もないし、山の中なのでやばいと思ったが、あたりは集落のただ中だった。回りを見渡すと、500メートルぐらい戻ったところにガソリンスタンドを発見。てくてくと歩いて向かう。

 路面に派手にオイルが飛び散っていないかと心配したが、オイル染みはほとんどなく、胸をなで下ろす。車を止めた場所にちびびびっとお漏らししただけですんだみたい。

 ガソリンスタンドのおじいちゃんに「マツダのオイルフィルターありますか」と聞く。在庫を見せてもらってロードスター用を発見。とりあえず、応急処置はできそうだ。

 事情を話したら、オイルを片付ける準備もしてくれて、軽トラで現場に戻る。車を動かして、とりあえずオイルの処理をしていたら、「何事か」と思ったのか、ほかのおじいちゃんと小学生が応援に来てくれた。ここら辺が田舎の良いところ。

 ぼろ布でオイルを吸っている間、僕は作業を進めることに。モンキレンチでとりあえず配管は外し、アタッチメントを固定しているオイルの取り出し口を外さねばならないことに気がついた。さすがにモンキレンチでは無理そう。「ソケット工具ある?」とおじいちゃんに聞いたら、もう一人のおじいちゃんがセットを取ってきてくれた。

 12.7sqのソケットセットで適当にあてがってみると、一番大きな27ミリのソケットがぴったりあった。狭い場所だし、工具が微妙に短い。とっても固く締まっていて、手を傷だらけにしながらかなり苦労して、ようやくゆるめることができた。オイルフィルターを取り付けて、外した配管は針金で固定し、オイルも入れた。

 焼き付いていたらエンジン回らないな、とちょっと緊張したが、オイル交換をしたときのように普通にエンジンが始動し、油圧もかかった。油圧がゼロになってがくがくっと症状が出て、2秒ぐらいでエンジンが止まったと思うので、ほぼダメージはなかったに違いない(そういうことにしておきたい)。

 中和剤をまいたり、デッキブラシでこすったりと、かなり丁寧にオイル処理をしてくれたおじいちゃん。本当に助かった。支払いをして、お礼を言ってガソリンスタンドを後にする。

 2時間を無駄にして、郡上八幡はあきらめて、美濃インターから東海北陸道に乗る。小矢部で始まっていたチェーン規制が飛騨清見まで進行していた。たぶん、呉西だけで呉東はあまり降らないパターンだ、と予想して、飛騨清見まで急いで走る。エンジンは普通に回っていた。

 予想はどんぴしゃに当たって、雪は降っていたけれど、路面に積もるほどじゃない。県境あたりまでは快適に走り、夕方は大沢野とか、掛尾あたりが込むので、神通川左岸を通って帰宅。ぎりぎり用事に間に合った。