3月11日

 昨日は鈴鹿山脈の入道ヶ岳へ友人と上った。標高906m。いつも行く美鈴湖ぐらいの標高だから、軽いな、と甘く見ていた。この前上ったのは標高2857mの常念岳だ。

 のんびりした山登りで、ナガシマスパーランドがある長島町の友人宅に午前8時に集合。四日市まで東名阪で走り、菰野町でコンビニに寄り、宮妻峡ヒュッテというところまで車で行こうとしたら、途中の道が工事中。手前に車を置く羽目になり、20分ほど時間をロスする。

 風が吹くと少々寒いものの、天気に恵まれ、とても気分がいい。ひたすら林道を歩くこと30分ほど。水沢峠へ至る登山道口に到着。

 鈴鹿山脈は伊勢に近いこともあり、あちこちに歴史を感じられる場所がある。途中には奇岩「仏岩」があり、ここは天照大神降臨の地とされているらしい。そのわりには一般に知られていないのが怪しいところであるけれど。麓の神社の宮司が独り、強弁しているのかも知れない。

 少々の急斜面を、ぼちぼちと歩いていく。途中、石で組まれた窯の後が無数、存在する。窯は天井部分が崩れ落ち、石垣のように朽ち果ててしまっていた。昔、炭を焼いた窯らしい。茶碗のかけらも落ちていたから、掘っ建て小屋を建てて、焼き上がるまでそこで生活したと思われる。こうしたところにも歴史が感じられる。

 なかなか良い登山道だ。何が良いか、と言えば人がいない。定番になりすぎた感のある北アルプスは、人だらけだ。難所では渋滞が発生する。登山は生活の煩わしさから逃れるのが目的の一つなのに、ひたすら人に気を遣わなければならない。

 登山道も、あまり踏み固められておらず、所々ルートを探さなければならないところも。北アルプスは整備されすぎて、石の階段ととんとんと上がって行くだけのところがある。所々砂で滑って歩きにくいものの、奥地へ入ってきた、という充実感はある。登りづらい。NikonF90に縦位置グリップを付け、フラッシュのSB-28をブラケットを介して取り付けた、重量1キロを超えていると思われるものを肩からぶら下げていたからである。撮影担当の悲哀、ぼちぼち歩く皆を残して、独り駆け出して先回りし、歩いてくる場面をフィルムに収めなければならない。自分が最初に未踏の地に立っているのに、そう主張することができない川口探検隊のカメラマンの悲哀に通じるだろう。

 水沢峠へ到着。ここはすでにかなりの標高がある。目指す入道ヶ岳のなだらかな山頂がほぼ真横に見える。反対側を見れば、鎌ヶ岳。岩がむき出して斜度のきつい、なかなかの山容を誇っている。

 尾根づたいに入道ヶ岳を目指す。せっかく登ったのに、かなりくだらなければならない。しかも、ピークがたくさんあるので、登ったり下りたり。

 砂が崩れてできた奇妙な地形や仏岩、重ね岩など、見所はたくさん。なにより、人がいなくて、自分たちだけで山を独り占めにできるのが良い。

 やせた尾根で、左右どちらにバランスを崩しても、数十メートルの滑落が待っている。左肩に重量物をぶらさげていると、いちいち姿勢を考えながら歩く必要がある。カメラを岩にぶつけないように。

 一度、かなり下って、今度はきつい岩場の斜面を登ると、アセビの木が生い茂ってくる。北アルプスは標高2000メートルを越えれば植物がまばらとなるが、標高が低いと、樹林帯を突っ切ることになる。視界が開けると、なだらかな山頂は目の前。椿大神社の奥宮で、中高年の団体登山と出会う。昼食を一緒にと誘われたが、山頂で食べることにしていたので丁寧に断る。「若い人たちのエネルギーを奪おうと思っていたのに」とおばさんパワー炸裂の言葉をちょうだいした。

 笹が黄色く枯れた幻想的な斜面を登ると、鳥居とともに一気に伊勢平野が目の前に広がる。残念ながら春霞のためちょうど伊勢湾のあたりまでしか視界がなかった。山国に住んでいると、一直線に伸びる水平線にあこがれるのである。北アルプスでは見られない眺望である。霞んでさえいなかったら、最高だったのに。

 昼食。コーヒーをわかしてもらって飲む。一気に下山して、長島温泉の「なばなの里」で露天風呂。うだうだと過ごして帰宅が午前零時前。

 午前7時に起きて、松本へ出勤したので、今日一日仕事にならなかった。