「トレーニングした方が良いよ」とある方からアドバイスされた。それは、十分承知している。鈴鹿南コースをフォーミュラEnjoyで1時間ぶっ通しで走っただけで、体のあちこちがけっこう痛くなった。FJはさらに体に厳しいに決まっているので、ここ数年アルコール漬けで、なまくら〜んになってしまった僕の体だと、やっぱり持ちこたえられないに違いない。
ところが、仕事もレースもというとなかなか時間がない。ちょっと仕事がたまれば午前様だってあるし、東京に行ったり、あちこち移動すれば家に帰ってからトレーニングやランニングをしよう、という気力すら起こらない。
だが、やっぱりちょっとは体を鍛えないといけない。だから、日常の中で負荷を掛けることにした。寝不足で体調が悪いときはできないけれど、通勤や移動の時、走るのである。
身なりはスーツにダッフルコート。黒い革のサラリーマンシューズを履いている。肩にはパソコンが入った重いカバンがかけられている。そんな状態で、だああぁぁぁぁ、と駆けるのである。とにかく、階段があれば駆け上がる。地下鉄の長い階段も一気に。いや、体力がないから、地上近くまで来たら、ぜいぜいいいながら、姿勢だけは走っていても、のろいのだが。新幹線のホームだろうが、エスカレータは使わず駆け上がる。
仕事をさぼってやる趣味の街歩きも今日からできるだけ駆け足にすることにした。さすがに厚着して革靴だから、本気で走ったら危ないので、できるだけ。インターバルの方が長いかもしれないが、やらないよりはマシだろう。
夕方、覚王山のふもとで仕事だったので、広小路通りをさっそく走り出した。ポケットに入ったものがちゃりちゃりなり、サラリーマンシューズはぱかぱか音を立てる。覚王山の坂を駆け上がり、頂上の日泰寺参道に至ったら、一休み。再び駆けだして、池下。本の三洋堂があるので、思わず寄って車本をあさってしまった。
今度は錦通りに移り、だああぁぁぁと走り出す。後ろから異様な物音と気配がするためか、通行人が振り返る。振り返った人のすぐ横をだだだだだ、とすり抜けて走る走る。で、また体力が続かなくて、早足歩きに戻る。今池を越え、千種に至ったら、ちくさ正文館があったので、思わず寄って車本をあさってしまった。
再び外に出て、駆けだした。いくらインターバルの方が長いとはいえ、厚着をして荷物を抱えたまま走っているので、新栄を越えて、東新町に来たところで、さすがに疲れてきた。思わす、手を上げてタクシーを拾ってしまう。
乗り込みながら思った。「こんなことしてたら意味ないじゃん」