月: 2001年10月

10月19日

 車に乗りたい、という欲求が胸の奥からふつふつと湧き上がってきて、夕方近く、ついに頭の辺りで破裂し、まともな思考が消し飛んだ。仕事をちゃちゃっと片付けて、いつもの山道に走りに行ったのである。きっと、抜けるような青空のせいに違いない。まぶしいほどの青い空の真下にいながら、ドライブするな、という方が間違っている。よく考えたら2日連続で仕事を抜け出してドライブに行っている。僕が経営者なら、こんな社員はクビにする。

 スーツ姿なのに屋根を開けて気合いを入れ、一路山を目指す。気合いを入れ目指す、と言うと、何やら決死の覚悟でもしているような、そんな雰囲気も漂ってきそうで、周りで走行している車にははなはだ迷惑な存在だが、実際は数分も走れば山道に突入してしまうのである。オープンカーにスーツ姿の怪しき男の目撃者は、それほどいない。

 昨日と同じく2往復ほど。やはり、足回りが気に入らないな、早くKONIをオーバーホールして付けたいな、などと考えながら、少し気合を入れてコーナーに突入。ぐらり、と姿勢が乱れ、これ以上のスピードだったらどこに飛んでいくのか分からないよ、などと情けない思いをしながら走っている。スーツ姿で屋根を開け、ところどころでタイヤをうならせながら走っているのは、心の中ではもしかしたら少しは格好良いかも、と悦に入っているのだが、スーツの裏地はとても滑る。車の中で男が1人、腰砕けの姿勢でステアリングと格闘している姿は、決して見栄えのするものじゃない。しかも、コーナー中に少しスピードが出過ぎなことに気付き、出口でアクセルをゆるめたりして、まったく、なってはいないのである。でも、どんなにうまく走れなくても、車のせいにしないのがポリシー。まだまだぞ、とつぶやきながら、いつまでも上がらない腕を磨いているつもりになっている。

 頂上でガソリンがないことに気づき、とぼとぼと山を下った。ガソリンを入れたら35リットルちょっと。トリップメーターは150キロと少しを示す。1600ccの車でリッター5キロしか走らないのはまずいな、と多少後ろ暗さを感じながらも、翌日にはけろりと忘れて、また走りに行くんだろう。

 だって、シーズンオフが近いのだから。

10月18日

 寒い。明日の最低気温は4度だそうだ。山の上はもう凍っているな。

 夕方、仕事場で座っていて仕事が増えるのも嫌だったので、密かに抜け出す。なんとなく、すっきりしたくてロードスターでいつもの山道へ。2往復もしちゃった。片道6キロぐらいあるから、激しく24キロ走ったことになる。前回給油してからまだ200キロも走っていないのに、燃料系が4分の1以下を指している。極悪燃費、激オイル食いの、環境に悪魔のような車である。

 暇だった昨日、ビデオを買った。怪しいやつじゃない。エンジンチューンがテーマのものである。はたから見たら、別の意味で怪しいか。

 パッケージには、さまざまな能書きが書いてある。いかにエンジンからパワーを絞り出すか、パーツの選択が重要だ、などなど。4AGやSRエンジンの中に、B6エンジンも入っていたから、何となく、買ってみた。13Bチューンまで盛りだくさんに入って、全部でたったの45分しかなかったから、その内容は推して知るべし。それでも、加工後の燃焼室がちらりとでも移っていれば参考になるな、と思って期待して見たら、案の定、何の役にも立たなかった。

 ごくごく普通に、エンジンの組み立て方の断片が収められているだけ。クランク回りのオイルクリアランスやエンドプレー、振れの測定(このサイトに掲載したばかりじゃないか)やバルブの当たりの見方、その他タイミングチェーンのかけ方など、普通の組み立て方を紹介しただけであった。パッケージにはハイコンプチューンとかいう文字が躍っているのに。「燃焼室はここを削れ!」「理想のポート形状はこうだ!」「B6エンジンにはこのピストンを使え!」とか少しは紹介してくれるのかな、と思っていたのに、やはりそれらは企業秘密なんだろうか。僕は少しはかじっているから、何となく感心する部分もないことはないけれど、これから始めようという人が見ても、なんだかよく分からないと思う。いったい、どこに焦点を絞って編集したのか、制作者の意図が全く見えてこない。「チューニング」をうたっておいて組み立て作業の羅列を見せるだけじゃ、詐欺に近い。

 以前にも、「サーキットドライビング」何たらというビデオを買ったが、これもまったく参考にならなかった。プロのレーシングドライバーが出演していたのに、擬音を交えた解説。素人にも運転させていたけれど、アドバイスが抽象的。自分で運転して車載カメラの映像を見せておきながら「そうそう、こうだよ」なんて、1人で話しているだけなのだから、救いようがない。

 中には出来のいいビデオもあるかも知れないけれど、今のところ2戦2敗。変態、と呼ばれてしまうぐらい速い人がロードスターで筑波を走った車載映像の方が、数百倍もためになった。

 でも、またそのうちにだまされるんだろうなあ。

10月17日

いつものショットバーで飲み、タクシーで帰宅したのが何時だったんだろう。それほど飲んだわけでもないのに、F1観戦の疲れが残っているのだろうか、かなり酔っぱらった。F1観戦の疲れ、というよりは、月曜日の夜勤でとっても眠かったので仕事場のソファで気を失って朝を迎え、天気が良かったのでドライブに出掛けたのがいけなかったのかも知れない。

出勤しなければ、と起きようと思ったら今日は休みであることに気付く。まだ、地球の自転を感じたので床から抜け出すことができない。外は雨だし、ドライブにも出掛けられない。一日ごろごろしているしかなさそうだ。

そういえば、こうして家でごろごろしている休日、というのはしばらくなかった。群馬に行ったり、サーキットに行ったり、F1観戦したり、と休みごとに何らかのイベントが盛りだくさん。充実していたけれど、エンジンをいじる時間はなかった。このサイトのメインのコーナーも、1カ月近く更新していなかった。昨日あわてて更新したけれど、待っていた人がいたら、ごめんさい。

「久しぶりにのんびりできるな」と考えたら、コンロッドが磨きたくなってきた。むくっと起き出し、作業服に着替え、グラインダーを片手に作業をする。顔が映るぜ。

やっぱり疲れがたまっているんだろう、作業が終わったら再び気を失った。暗くなりだした頃に起きる。マツダのディーラーに出掛ける。エンジンスタンドにシリンダブロックを固定するボルトをもらいに行ったのである。

ボルトは見つからなかった。代わりに中古のKONIのショックをもらってきた。オーバーホールして使おう。

今日の一日をそのまま表現したような、眠たい文章になりました。

10月16日

F1決勝当日。友人と、夜の宿代を賭け、勝者予想である。実はこれまであまりF1に興味がなかったので、公式ガイドブックを見ながら学習。友人の話を聞いたり、直前情報を読んだりしながら考えた。

僕が選んだのは、ウイリアムズのモントーヤ。予選で2位。新人で予選がとても速かったし、態度もでかい。アウトローで暴れん坊なところに惹かれたのだ。爆速ミハエルは総合2位を狙う同僚バリチェロを1位にさせるため、道を譲ると予想した。スタート直後でミハエルの土手っ腹にぶつけてともにフェードアウトする可能性など、モントーヤはいつどこで派手にクラッシュするか分からないリスクはあったものの、とっても速そうで気に入った。

友人は最初、譲られるであろうバリチェロをチョイスしたものの、考え直してハッキネンを選んだ。これは彼自身の思いもあったとみられる。スタート直後にモントーヤがミハエルを狩ってしまえば、十分にあり得る。結局、神速を見せたミハエルが1位。モントーヤが2位でハッキネンは実質3位だったから、なかなかいい予想をしたことになる。順当にいっただけか。

座った指定席は「D」という区域。この区域は1コーナーの突っ込みを見ることができる、良い場所だった。席料は32000円と高いが、スタート直後にごたごたがあれば一番に見える場所だし、ホームストレートで一番スピードが乗るし、抜くポイントでもある。さらにS字が見える。素晴らしい。

緊張のスタート。カーンと飛び出したのはミハエル。まったく危なげもなく、刺客モントーヤも寄せ付けない完璧なスタートだった。動けない車が1台あったものの、スムーズな開幕。テレビ観戦と違うのは、すべての車が通りすぎてしまうと、静寂が訪れること。実際は、遠のく爆音や周りの歓声でうるさいはずなのだが、鼓膜が振動するほどの爆音を聞いた直後なので、シンと静かになった感じがする。

1番で戻ってきたのは、ミハエル。すでにモントーヤとの差が開き始めている。速過ぎ。少しぐらいトラブルがあればレースが面白くなるのに、危なげなく貫禄勝ちしてしまった。

観戦で一番興奮したのは、暴れん坊モントーヤ。スタート直後、バリチェロとバトルを繰り広げていた時、シケインで抜かれた直後の1コーナーで再び抜き返したときである。バリチェロは3回ピット入りしたので、序盤に燃料をあまり入れずに車体を軽くし、モントーヤをぶち抜いた後、ミハエルが1位を譲って、モントーヤをブロック。そのまま抑える作戦だったのかも知れない。

身軽だったと思われるバリチェロは、シケインにて稲妻のような動きでモントーヤをパス(リプレイの映像で見た)。2位に躍り出たように思われた。

1コーナーで観戦いるときには、ミハエルの後、モントーヤの姿が現れると思っていた。しかし、立ち上がってきたのは赤いバリチェロ。「どこで抜いたんだ?」と不思議に思う間もなく、モントーヤ、イン側にノーズを差し込み、1コーナーへ2台がからまって激しく突っ込む。負けじとブレーキを遅らすバリチェロ。2台のブレーキローターがひときわ明るく輝く。タイヤはロックしなかったから、絶妙なブレーキングである。

ぶつかる、と一瞬、思ったが、モントーヤが競り勝った。バリチェロはイン側を締めることができなかった。暴れん坊が迫ってきたからラインをふさいだら「ぶつけられる」と思ったのかも知れない。体に震えが来るほどの鮮やかな抜き方だった。なにせ、ぶち抜きスペシャルの戦略を立ててきて(予想だけれど)、実際に抜き去った車を、直後に抜き返したのだから。この一瞬だけでも、この席に座った価値があった。

しかし、テレビ放映ではこの場面が出てこなかった(見落としただけ?)。アレジや2位争いに焦点があったから、仕方がないか。でも僕は、この人間味あふれるドライバーを応援したくなってきた。あまりにも優等生じゃつまらない。ある屋台に売っていたモントーヤTシャツ(6000円!)を買い損ねたのを悔やむ次第である。このTシャツを着て街を歩いていたら、かなりファンキー。F1に詳しい人が見たら、吹き出すかも知れない。ステキ。

写真は、午前中のフリー走行のとき撮影した。さすがに自分の席からでは無理だった。時速300キロ以上の物体は、望遠レンズを通すと、一瞬で過ぎ去ってしまう。色のついた陰が横切ったようにしか見えない。選んだ場所は130R。シャッタースピードは125分の1で流し撮りをした。物足りない数値に見えるかも知れないが、何しろF1マシンを追っかけているのだから、レンズを振るスピードも半端じゃない。十分背景が流れていた。

2枚を紹介。

 激速M・シューマッハ。少々ピントが甘い。やはりフェラーリは人気が高かった。グッズに身を包んだ人の何と多かったことか。

 やはりホンダのエンジンを積んだ車に、自然と目と耳が向いた。F1を去るにもかかわらず、クラッシュしてしまったジョーダンのジャン・アレジ。

 あの音を1度聞くと、クセになるかも。来年は開幕から毎戦テレビ観戦することになるのかしら。

10月15日

F1観戦は宿確保が最大の壁だった。

「F1に行こう」と甲府の友人に誘われたのは、今年の夏前ぐらいだったか。チケットの販売状況をホームページで見て、まだ売れ残っていたのを確認し、行くことに決めた。チケットの購入は友人にまかせた。

ところが、9月中旬になっても「まだ買っていない」という。すでに年間優勝が決まっていたので、キャンセルが相次いで、チケット屋での値段が下がると踏んだらしい。友人は1度行ったことがある、と言うし、本当に行けるのかしら、と心配になりながらも、とにかく待っていた。

友人が買ったチケットは入場料9000円と、指定席32000円の計41000円の場所だった。「D」というブロックで、ホームストレートから1コーナーに入る、非常に良い場所だった。しかし、安く買うと言っていたわりには、定価のままの購入であった。

相談の電話が掛かってきたのは、先週のこと。「宿を探したのだけれど、あまりまともなところがない。明日までに入金すれば泊まれる場所が1カ所ある」とのこと。値段を聞くと1人20000円。普段はモーテルらしい場所なのに、だ。さすが国際イベントF1。特に宿泊関係は「F1価格」になってしまう。

41000円の上に2万円も払いたくなかったので、鈴鹿市の隣、亀山市に住んでいる人に電話をしてみた。すると、「何もかまえないけれどOKよ」という返事。やはり持つべきものは心優しき知り合いたちである。

そして、F1出発前の金曜日。快く泊めてくれたお礼を持っていこうと、仕事をさぼって食材を買いに出掛けた。信州ならではのうまいもの、と言えば、きのこ鍋しかあるまい。知り合いに少し分けてもらうようお願いし、さらに松本平中を回ってきのこをかき集める。

松本電鉄上高地線の終点、新島々駅近くのおみやげ屋や、町の観光協会が運営している地場産センターを回り、かき集めた。クリタケ、ヒラタケ、シメジなどなど。さらに、塩尻の知り合いのところへ寄り、僕の中では1番うまいと思うジコボウを分けてもらう。おみやげ屋では、3、4000円で売っているやつを、冷凍だが、大量にもらった。

ジムニーの助手席に積み上げられたきのこたちを見て、1人でほくそ笑んだ。いまだかつて、こんな大量のきのこを鍋にぶち込んだことはない、と。

その日の夜は、友人Kの仕事先での送別会だったので参加する。いったい、いつ仕事をしているのか、自分でも不思議なくらいだ。土曜日は、甲府の友人と午前6時すぎにJR岡谷駅で待ち合わせをしているので、ちびりちびりとやっていた。

いつもと同じようにしこたま飲んでしまって意識不明となり、携帯の振動で目覚めたのが午前6時前。完全に遅刻である。

友人Kが「翌日、朝に東京に帰る」と言っていたのを思い出し、電話でたたき起こして、迎えに来てもらい、岡谷に向かう。岡谷インターに午前6時半すぎ着。甲府の友人のスープラに乗り込み、鈴鹿を目指す。午前11時着。フリー走行は音しか聞こえなかった。予選はシューマッハの走りに興奮する。

夜、9時半ごろ、亀山の知り合いの家に到着。大量のきのこを開けたら、家の人が目を丸くしていた。東海地方ではなかなかお目にかかれるものではない。とにかく、きのこを鍋に全部ぶち込んで、煮込む。本当は、水を入れずに肉を焼き、野菜を投入してから、日本酒を注ぎ込み、野菜から汁が出てきた頃にきのこを加えると、濃厚なスープとなるのだが、この日は昆布だしの中に放り込んだ。5、6種類のきのこが投入された鍋は壮観である。肉は豚肉がうまい。野菜のメインはやはり白菜。それにしょうゆで味付けしただけである。

煮上がったきのこたちの醸し出した味の、なんとうまいことか! 4人では食べきれないかな、と思っていた、ただならぬ量の鍋だったのに、見る見る間に胃袋に収まっていく。具を食べ尽くした頃に、うどんを入れる。きのこだしの汁で煮込んだうどんは、もはや別の食い物である。大量の具を食べた後のうどん3玉も、瞬く間に終了した。

亀山の知り合いも、「これまで食った鍋のなかでも1、2を争うね」と絶賛。きのこのうまさに開眼したようであった。まつたけの味、なんてお金を出してまでのものじゃない。雑きのこのうまさに比べれば。

連日の飲みで体力が消耗していたが、これで回復。

10月12日

いつも日付が変わる前後に行くのに、昨日は仕事場の先輩とともになぜか8時台にいつものショットバーに行ってしまった。マスターびっくり。松本産のセロリをもらってあったので、小脇に抱えていた異様な姿にもびっくりしたんだろう。手渡すと「ちょうどよかった。買おうかと思っていたところ」と、喜んでくれた。本当に「ちょうどよかった」かどうかは分からないが、心からあげて良かったと思わせるリアクションがうれしい。客が集まるのは、1杯500円の明朗会計でお得だから、というだけではない。

マスターに惹き付けられた夫婦が、10時すぎに入ってきた。なにやら、必死にホテル探しをしている。紅葉の時期だからか、観光地・松本のホテルには空きがない。10軒以上は電話をしている。「泊まる場所がないのかな」と思っていたら、チェックインしたホテルの門限が11時ということが気に入らないらしい。曰く「松本に来たら、マスターの店で明け方まで飲まないと気が済まない」。結局11時になってしまい、新しい場所も確保できていないのに、チェックアウトしてきてしまった。

いろいろ探して宿は確保。よっぽどこの店が気に入っているとみえ、「今日は朝まで飲んでいく」。以前、松本に来たとき、開店したばかりのこの店で、いろいろな酒や食べ物を出してもらった挙げ句、「今日のお代はいい」とマスターが言ったらしい。よっぽど意気投合したんだろう。

話を聞いていると、民事再生手続き中の企業の関係企業の責任者という。民事再生のあおりを受けて、この会社単独では利益が上がっているのに、明日倒産するらしい。

悲惨な話をしているわりには悲壮感がない。いろいろ身の上話を聞いているうち、やくざな家系であることが分かる。しかし、この人は「堅気」らしい。実際、入れ墨は入っていないと言う。

こういう人の話を聞くのが一番面白い。ある街のぼったくりバーに入ってしまい、請求されたのが1人8万円。5人だったから40万円の請求書だったそうだ。この種の店では1人1人別の部屋に呼び出すのだそう。他の人は払ったのに、自分は頑として、入場料の数千円以外払わなかった、という。もちろん、身内の素性は明らかにしていない。あまりにも心棒の入った態度に、「こんなにがんばったのはお前が初めてだ」と、親分に呼び出されたという。

「自分はどんなふうになっても稼いでいけますからね」と、威勢がいい。ここには書けないような仕事も、実際やっていたという。「まじめにやっている人につらいことをいわなければいかん」と、民事再生企業に対する恨み節を延々と並べ、こちらも魅力的な話に聴き入っていた。

晩飯も喰らわずに、セロリやチーズといったものだけ食べて、午前2時。帰りにカップラーメンを買い、仕事場で喰らう。

翌日1日仕事に身が入らなかったのは言うまでもない。

10月11日

仕事途中、なぜか松本市のアルプス公園に行った。松本城がある中心市街地より200メートルほど標高が高い。そのせいか、赤とんぼがあちこちに飛んでいた。そろそろ里まで下りて来る、ということはもう本格的な秋である。見上げたら、青い空。天気もいいことだし、スカッとした気分になりたくて、夕方に仕事をさぼってロードスターに乗ることにした。

そう考えると、少しうきうきした気分になってくる。いつもはのろのろとはかどらない仕事をさっさと片付けて、無言で仕事場を飛び出し、自宅でジムニーからロードスターに乗り換えて出発した。時間は5時前。

少し激しく乗ろうと、手袋を着け、開幌状態。いつもの山道を駆け上る。スーツの上着はとても滑る。少しアングルを付けて、ぎゅーんを軽くうならせながらコーナーを曲がっていたら、キノコ採りにでもやってきたと思われる人がわきを歩いていた。「いい感じの姿勢だ!」などと思っていたのに、はたから見たら極悪な車。とってもきまりが悪い。

ゴルフ場の出口から、R32スカイラインが下りてくるところだった。フロントグリルの形状からすると、GTRか。バックミラーで付いてきたのを確認。「追ってくるな」と思った。少しアクセルをゆるめていると、案の定。近づいた。自分のペースで走る。

美鈴湖で車を止め、相手が通り過ぎるのを待つ。通り過ぎるR32。少し時間をずらして、走り出す。この先は美ヶ原林道。幅細く、ロードスターには有利な道である。

しばらく走ると、追いついた。すると、後ろに気付いたからなのか、突然の急加速。こちらも相手に圧迫感を与えないぐらいの、一定の車間を開けて付いていく。

遅い。うっかりすると、車間が詰まってしまうので、踏めない。下手にあおったら、ガードレールに突き刺さるかも知れないし、ずっと煮え切らないまま付いていった。峠に出たところで、相手は武石村方面に下っていった。

稜線の道を走り、頂上の駐車場でUターン。山を下り、視界の開けた場所で車を止める。眼下に広がる松本の街の、銀河のようにも見える明かりを見ながら、缶コーヒーを飲む。この瞬間が、幸せ。

山では茶色に染まった葉が盛んに落ちている。もう1週間もたち、雨でも降ればとても走れる状態ではなくなる。だんだんと、走る場所が狭まっていき、降りた霜がなかなか解けなくなれば、今シーズンも終わりである。

10月10日

 晴れの特異日だったはずの体育の日が、休日から外れた途端、大雨の予報。やはりこれまでは、「運動会、晴れろ晴れろ」という日本人の念が雨雲を吹き飛ばしていたんだろうか。少なくとも覚えている限りこの日に雨が降った記憶はない。

 大雨の中、止めておいたジムニーに乗り込んだら、助手席の足下がびしょびしょに濡れていた。固い屋根が付いているくせに雨漏りである。我がロードスターだって、露骨には雨漏りしないのに、なんという軟弱な。したたっている場所を追跡してみると、ヒーター回りからの浸水らしい。平成元年式だから、これぐらいのガタは仕方のないことか。ロードスターなら大慌てですぐにでも手当をするのだが、ジムニーだとあまり気にならない。放っておく。

 そろそろオイル交換だし、ついでに車屋に見てもらおう、と思っていたら、車検の時期であることを思い出した。前の車検では、デフ回りのオイルシール交換が余分に掛かって10万円を超えた気がする。最近、激しくロードスターに金をつぎ込んでいるので、かなり痛い出費だ。F1観戦、友人の結婚式などなど、年末にかけて金のかかるイベントが目白押しのような気がする。

 足回りは来年か。

10月9日

治部坂から出勤した7日の夕方、大学時代の先輩から突然電話が入った。この先輩、先輩のくせして今年ようやく社会人1年生である。あまり先輩だと思っていなかったりする。東京で始まった生活の息苦しさから解放されようと、レンタカーを借りて戸隠まで来ていたのだった。もちろん「泊めてくれ」とのことである。

前日にも午前3時まで飲んでいたこともあり、かなり眠かったのだが、わざわざ松本に来ているのだから仕方がない。泊めてあげることにして、一緒にメシを喰らいに行く。お店でキノコ鍋を食べさせてあげようと思っていたら、日曜日だったので、扱っているお店がことごとく休みであった。居酒屋に入り、キノコ入りの湯豆腐を喰らう。ビールを1本。日本酒を1杯。ラストオーダーとなってしまったので、行きつけのショットバーに向かう。最近、車関係以外はいかにさえない生活かを話していると、満員だった店内がいつの間にか3人になっていた。

タクシーの中で空爆開始を知る。なぜかとばっちりを受けて、翌日はふらふらな足取りで出勤である。

1日中頭がスッキリしなかった。なぜかな、と思ったら、喉が痛くていつもより体がだるいことに気が付く。どうから風邪を引きかかっているらしかった。午後10時ぐらいに家に帰ったら、スーツ姿のまま意識を失う。

変な寝方をしたものの、長く寝ただけあって、どうやら直ったらしい。風呂に入り、再びスーツを着て出勤した。

昔より無理できなくなったような気がするな…。

10月7日

 友人Kの引っ越しを手伝った後、治部坂へ行ってきた。こうやって書くと中部ミーティングに参加したように見えるが、満面の笑みでこちらに手を振って会場の駐車場に誘導する係員に軽く会釈して、猛スピードで走り抜けてしまった。心が痛む。

 前日泊組みの集まりに潜り込んだのだった。今日はどうしても外せない仕事があったので、泣く泣く出勤である。

 三重のショップのデモカーに乗った。といっても助手席だが。ドライブした人は速過ぎて「変態」と呼ばれてしまう人。サーキット走行前夜、午前5時まで話を聞いていた人である。キャブ車でバネは前15キロ後13キロだったか? 13インチのSタイヤ。で、道路のギャップで目玉が飛び出し、首の骨がずれるかと怖がっていたら、乗り心地が良かった。自分の常識では考えられない、ものすごい動き方をした。「こんなスピードで突っ込むんですか?」「ここでさらにアクセル踏むんですか?」と、もはや別世界。もちろん、ドライバーは人の車だから遠慮して走っていたことは言うまでもない。

 その後、筑波サーキットで1分6秒台のドライブ(もちろんロードスターで)の車載カメラ映像を見たりして、宴会場で午前3時ぐらいまでずっと話を聞いていた。質問ばかり。

 上には上がいてきりがない。そんな思いを新たにするとともに、自分のちっぽけさを再認識する最近なのであった。