諏訪の某氏と、霧ヶ峰へ遊びに行った。高原のペンションでどこまでも真っ白な平原を眺めながら、お洒落にコーヒーを飲むのだ。
標高1500メートル地点だから、もちろん、道は圧雪状態である。99年に買ってすでに3シーズン目に突入しているミシュランのマキシアイスでは、少々不安である。
スタッドレスタイヤを買った時点での目的は、雪道を走るのではなくて、実家までの往復で乗る高速道路のチェーン規制をかいくぐるためだけだった。だから、ディーラーのアドバイザーには「高速道路で走っていても安定していてなるべく減らないものを。雪道の性能は無視して良いです」と注文したら、ミシュランを勧められたのである。確かに、スタッドレスにしては乾燥路でもしっかりとしているし、あまり減らないので満足である。けれども、やはり雪道の性能は、他のスタッドレスタイヤより少々劣るようであった。
スタッドレスタイヤの効きが甘いと、何が困るかと言えば、発進と上り坂である。3シーズン目を迎えた上、新エンジンとなってがんがん走っちゃっているので、最近の雪道では、かなり怖い思いをしていた。なんでもない場所で、スタックしてしまうのである。ある程度の勾配があり、湿って滑りやすい道だと、タイヤが車体を推進させる力より、重力の方が大きくなって、だんだん速度が落ちていき、止まってしまう。車速が落ちたからとアクセルを踏めば、豪快に雪を跳ね上げながらタイヤが空転するだけなので、前に進みたいのにアクセルをゆるめるという訳の分からない状態となる。
不安は的中して、案の定、霧ヶ峰高原へ向かう裏道は勾配がきつくて、上り初めから300メートルぐらいで止まってしまった。止まれば、再び前に進むことはほぼ不可能なので、Uターンするしかない。仕方なく、きれいに除雪されている観光道路へ向かう。
観光道路は、冷や冷やする場所が何度かあったけれど、問題なく上ることができた。ちょうど良い具合の圧雪と、コーナーの曲がり具合だったので、車を滑らせる練習をしながら上がる。上から観光バスが下ってこようとも、ひたすらリアを流す。前を走っていた諏訪の某氏は後ろの車の不審な挙動に気付いたらしく、デジカメで写真を撮っていた。器用な人だ。
標高が上がれば、雪がだんだんと締まってきて、それほど滑らなくなってくる。一面が銀世界の霧ヶ峰高原に到達し、ビーナスラインと合流する地点から、少し外れた場所にあるペンションへ。湿原を見渡すことができる、いい場所だった。この時期だと一面の雪だけれど。
赤ちゃんを背負ったお母さんが入れてくれたコーヒーを飲み、豊かな時間を過ごす。「こんな雪深い場所で冬でも営業していて、お客は来るんですか」と聞いたら「ええ、物好きがときどき来るんですよ」。どうやら、僕らは物好きらしい。
ペンションを出て、ビーナスラインの行き止まり地点まで行く。戻ろうとUターンしたら、何でもないところでスタックした。
本当になんでもない場所で動けなくなっちゃうのである。某氏のNBに引っ張ってもらうという情けない事態になった。
帰りはスタッドレスの効きの違いをまざまざと見せつけられた。出せる速度が違うのである。加速しない、曲がらない、止まらないの3拍子なので、十分に速度を殺してからでないと、コーナーが曲がれない。それでも、付いていこうと怖々スピードを上げたら、2段階にRがきつくなっていく左コーナーで明らかに、オーバースピードで進入してしまった。スピン覚悟のドリフトに持ち込んで曲がるほどの余裕がなかった。知らずに突っ込んだ2段階コーナーは怖い。
普通の乾燥路なら、ロック寸前までブレーキを踏んで、十分速度が落ちたところで壁を避けるのだが、雪道は、あっという間にロックしてしまう。止まりたいのにブレーキをゆるくしか踏めない、このもどかしさ。あきらめると、雪の壁に一直線に刺さり、運が悪いと崖から落ちてしまう! 何とか曲げるのだ!と、ハンドルを切りたいのに、曲げたかったら、ハンドルを切りすぎてはいけない、このもどかしさ。じりじりと近づいてくる壁に焦りながら、必至にロック寸前でタイヤをコントロールして、ニュートラル付近のハンドル操作。苦労むなしく、ノーズ右側が雪壁に激突。派手に雪煙が上がった。降りてぶつけたあたりを見ると、無傷だった。必死で曲げようとしていたおかげで、雪壁をかすった程度で済んだのであった。あきらめちゃいけないね。
下るにつれ、だんだんと雪が湿ってきて、滑りやすくなる。まっすぐ走っていたのに、突然車が真横を向く、という怖い状態である。
何とか、壊さずに下りてきたのでした。雪道で遊ぶなら、効くスタッドレスは必須。