2月24日

 酔っぱらって失敗しちゃった。

 富山のロードスタークラブの方々が白馬に泊まりがけでスキーに来る、と知ったので、同じ県内に来るのだから、行かねばならぬだろう、と1人、勝手に納得して仕事を終えて夜、ペンションでの飲み会に合流することにした。

 土曜日は仕事。ちゃちゃっと片付けたかったのだが手こずってしまった。大町での仕事だったのが幸いして、午後9時すぎ、ジムニーでペンションに乗り付けた。

 仕事のついでに飲み会に寄った形。夕食も終わり、風呂も入ってのんびりとみなさんでトランプをやっている和やかな場に、スーツ姿の怪しい男が乱入したのだからさぞ気分が悪かったに違いない。

 飲んだ。ビールを数本。それに手ぶらではいけないと、買っていったワイン「CARLO ROSSI」を何杯も。3リットルびんだから、いくら飲んでも減っていかない。

 壊れた。かなり崩壊していたらしく、翌朝みなさんに心配された。「面白かったから良かったけどな」と、励まされているんだか誉められているんだか分からない言葉をかけていただいた。大変迷惑をかけた。どんな風に壊れちゃったかは言うまい。

 朝からまたビール。前日からの人格全壊状態が維持される。多くの人はスキーへいったのだが、4人宿に残ってずっと何をすることもなく座って、飲んでいた。風呂へ行った。仕事帰りだから着替えを持っているわけもなく、営業に疲れた会社員がリフレッシュに来たような雰囲気で公衆浴場に乱入する。

 そして宿に戻り、何をすることもなく、仲間と語って飲む。なかなかいい時間の過ごし方である。人格さえ崩壊していなければ。

 お昼、スキーをやっていた人たちが戻ってきた。「ちびっこゲレンデ」にある、チュービングという遊びをやりに行くというので付いていった。大きなタイヤのチューブのようなものの上に乗って滑る遊びである。ちゃんと専用リフトがある。

 スーツにネクタイ、革靴姿でずかずかとゲレンデに押し入っていった。すれ違う人がみな「えっ」という表情をする。あなた、それは間違っていますよ、という表情。何を営業に来ているんですか?と思われても仕方がないような異様さである。派手なウエアと黒スーツ。レジャーと営業中。

 ほろ酔い気分なので、人の視線がかえって気持ちいいくらいである。2人がやることになり、大人用の大きなチューブに乗ってリフトで上に上がっていく。そして勢いを付けて滑り降りてくる。なかなかのスピードで、音もレーシー。

 これはやるしかあるまい、と僕の格好を見て怪訝そうな顔をした係員に、スーツですけどやります、と間抜けなことを言って、料金の100円を無理矢理渡す。

 リフト係のお姉さんは冷たい目で「濡れてますよ」。チューブが水で濡れていようが、お構いなし、大丈夫、と大きな声でお姉さんを安心させて、どっかと座り、リフトで斜面を上がる。スキーリフトの真下にちびっこゲレンデがあったので、どうやらリフトの人がすべて僕の方を見ていたらしい。ある人の証言によると、リフトに乗った人の視線の先に僕の姿があったようである。スーツ姿を見たときはかなり笑ったらしい。

 大の大人3人がちびっこゲレンデにチューブを持って立つだけでも異様な光景なのに1人は黒スーツ姿。もちろん、車仲間なのだから、レースなのである。どりゃ、と気合を入れて頭から突っ込み、腹這いでチューブの上にしがみついて滑っていった。

 タイミングが悪くてスタートを失敗。致命的な遅れを取ってしまった。しかし、足でばたばたと斜面を蹴るわけにも行かず、ただ重力に任せて滑るしかないのである。前の人を抜こうにも、なにもできない。

 速い。地面が顔のすぐそばだから、体感は時速120キロ。うお、と変な声を出しながらあっという間に滑り降りた。結局、そのまま同じ距離を保ったままゴール。ビリ。

 3人が団子になって滑っていけば、下りきったところで衝突事故が発生するに決まっている。案の定もみくちゃになってメガネのフレームが少し曲がった。

 飲み過ぎて頭が痛い。失敗して頭が痛い。