信州大の某教授が「アクティブトレーサー」という機械を開発した。
万歩計を恐ろしく正確にしたと思えばいいかもしれない。大きさもポケベル程度で、XYZ3軸の加速度を正確に記録する。人間の腰に付けた場合、立った、歩いた走った、こけた、という動きが加速度として記録されていく。手で持って、少し振った程度でちゃんと反応するからかなり細かな動きも記録する。データはUSBを使ってパソコンに入力できるようになっている。
この加速度の数値と体重が分かれば、消費したカロリーが正確に分かる。万歩計では走っても歩いていても、歩数しか出ないからどれだけの強度の運動をしたのかは分からない。アクティブトレーサーの場合は、加速度として記録しているから、とっても正確に消費カロリーが分かるのだ。
この先生はスポーツ科学が専門。これを何に使っているかというと、お年寄りがどれだけ強さの運動をどれだけの量したら、健康を維持していられるか、ということを探るためだ。昔成人病と呼んでいた生活習慣病は、多くの場合、運動不足が原因という。だから、例えば高血圧で悩んでいる人が病院に来た場合、薬を渡すのではなく「あなたみたいな人が1カ月これぐらいの運動をしたら、血圧がこれぐらい下がります」と運動を処方するのだ。現在、実際に中高年の人を対象に健康教室を開いて、データを蓄積し始めたところ。
このデータをグラフにしてのぞいてみると恐ろしいのだ。月単位で見れば、ある人が最初、どれだけ意気込んで運動をやり始め、時がたつにつれてだんだんさぼって運動しなくなり、けれどもデータを回収する直前はやはり運動をしないのも何だからと再び運動を始めた、というような様子が克明に分かる。さらに、もっと恐ろしいのが1日単位の動き。スイッチを切り忘れたらしい主婦の、運動をしていない間の動きも克明に記録されていた。ウオーキングから帰り、しばらく何やら家事ぐらいの強さの運動をやり、夕方になって、どうやら夕食の支度。その後、片付けて寝るに至るまでが、だいたい分かる。
自分に付けられちゃった時を想像するととっても怖い。仕事していないのが一発でばれる。午後1時から3時までまったく動きがなければ、それは昼飯を喰らった後に、少し長めの昼寝をしたに違いない、ということが分かるのみならず、寝返りが多いから落ち着いて寝られなかったんだな、ということまで、詳しく分析すれば分かってきてしまうのだ。スポーツ選手だと劇的。ゲームの中でどれだけ動いていたか、さぼっていたかが露骨に分かる。これは、怖い。
何でこんな装置を紹介したかと言えば、先生から話を聞きながら、車に積めば面白そう、と思ったからだ。車重を測っておき、回転数などのデータと合わせて計算すれば、エンジンの馬力が正確に分かる。サーキットに持ち込めば、どこどこのコーナーでアンダーだしちゃったとか、このドライバーとあのドライバーであのコーナーの攻め方がこんなに違う、だとかが分かりそう。あれこれ考えるだけでいろいろな使い方が浮かんでくる。
ちなみに、加速度を測るセンサーは自動車用ABSのものだという。ロックしたかどうかを検知するセンサーがこんな使われ方をするとは。
まだまだ試験段階だから、装置は1つ5万円。さらに、わけてほしい、と言って買える物ではないのが残念。