2月19日

 ジムニーの調子が悪い。4000回転ぐらい回すと、突然息つきの症状がでる。1月中旬、B6エンジンを高崎に取りに行ったときに初めて出た覚えがある。住処のある松本から、三才山という峠を登るとき、3速でいくらアクセルを踏んでも、加速しなくなった。帰りに、碓氷峠のバイパス道路を走っているときも、出た。

 碓氷峠はかなりの急坂。エンジンを積んだ上、急坂である。ちゃんと登るかしら、と緊張が走る。登坂車線の看板が出たところで、気合いを入れ、フルスロットルくれてやる。ターボラグの瞬間を経て、エンジンはうなりをあげて回転を上げていく。だが坂にさしかかった途端、がくがくん、とブレーキがかかったように加速しなくなった。その間、スロットルを開けようが閉じようが、なんの反応もしない。しばらくすると、思い出したように加速。再びがくがくとスローダウン。この振動で、荷台のエンジンが踊って、ぶっ倒れた。

 ロードスターだったら翌日にでも修理してしまうのだが、足車のジムニーである。できることなら、あまりお金を掛けたくない。症状は出たり出なかったり。だましだまし乗っていた。プラグコードあたりが怪しい、と踏んでいる。

 平成元年式で走行距離46000kmのものを2年半前に買い、以来2万キロ乗った割にはトラブルもなく、快調に走れていた。しかし、一度トラブルが出だすと、次々と続くものである。今度は、セルモーターがいかれた。

 ある朝、出勤しようと、ジムニーに乗り込み、鼻歌なんかを歌いながら、快調にクラッチを踏み込み、おもむろにキーを回したものの、クン、と少し鳴いただけで、エンジンは沈黙したまま。バッテリー上げちゃった、と思い、ライトのスイッチなんかを確認するが、ちゃんとOFFになっている。おかしい。

 もう一度回すと、今度は、モーターが回る音だけがした。さらにもう一度回すと、今度は、シャリシャリシャリ。ピニオンギアがむなしく空回りする音がする。諦めずにもう一度回すと、きゅぅおん、と正常にかかった。

 その後も、何度か同じような症状が出て、本格的に壊れると不動車になってしまうので嫌だな、と思いつつも、やはり面倒くさいので捨て置いた。

  今日は午後11時ぐらいまで仕事場でうだうだ過ごし、帰宅するとき、同期のやつと一緒に、ジムニーの調子が悪いんだよね、などと話しながら駐車場に向かう。さっそうとジムニーに乗り込み、勢いよくキーを回すと、シャリシャリシャリ。焦ることはないさ、と数回、キーをひねるが、ピニオンギアがリングギアに食い込むことはなかった。同期のやつは、比較的新しいインプレッサ。一発始動に決まっている。悔しさがふつふつと胸の底からわいてきた。薄暗い場所ながらも、満面の笑みを浮かべていることぐらい気配で分かる。

 仕方なく、懐中電灯を取り出してエンジンフードを開け、外に出る。同期のやつもインプレッサから降りてきた。のぞきながら、セルを回してもらう。シャリシャリという音とともに、加熱されたケーブルから焦げた怪しげなにおいが漂ってきた。あまり、長い間セルを回しているのはまずい。

 残された手段はただ一つ。押し掛けしかあるまい。オートマチックしか乗っておらず、押し掛けを知らない同期のやつに、クラッチの操作法を教え、運転席に座らせる。車の方向を変え、ギアを1速に入れると、フルパワーでジムニーを押す。軽自動車のくせに重いぜ。頭の血管が切れそうになりながら押し、少しスピードが付いたところで、同期のやつに合図。クラッチをつないでもらうが、つなぎ方がゆっくりすぎて、失敗。
もう一度、挑戦すると、今度はクラッチをつないでも止まらない。ギアを入れ忘れちゃった。

 同期のやつも悪いと思ったのか、失敗後、バックの方向に車を押してくれた。二人で押すと、さすがに、スピードの付き方が違う。そのままフルパワーで押し、走るぐらいのスピードになったところで運転席に飛び乗り、ギアをバックに入れ、クラッチを、がつん、とつないでやる。どん、という音とともにブレーキがかかって車は停車。
クラッチを切ると、アイドリングしていた。成功である。何とか、車で帰宅することができた。

  明日にでも工場に持っていこう。また、掛からなくなってたりして。