部屋を片づけていたら、床に散らばった本やゴミの地層の奥から、一冊の本が見つかった。いや、9月号だからつい最近出た本なのだが、行方不明なってから久しぶりに発見されたので、感慨深かっただけなのだ。ああ、こんな本も買ったな、と。
ある車いじり雑誌の増刊号。プロのメカニックの方がエンジンを元気にするために何が効果があるのかを解説している本だ。何が効いて、何が効かないか、が具体的にばっさりとした口調で書かれている。例えば「インターネット情報の落とし穴」という項目では「誰もが即座に情報を配信できるため根拠がない情報も多い」と、実に正しいことが書いてある。その通り! こんなサイトに書いてある情報など信頼しちゃあ、いけないのだ。
チューニング業界で真実として流通している情報について「ちょっと待った!」という感じで反論しているところは面白いかもしれない。が、中には「反論のための反論じゃないか」と思ってしまう部分もある。例えば、「チューニングを始める人は『必ずポート研磨が効く』と信じて疑わない。『規則の厳しいノーマルカーレースはポート研磨などできないのだよ』と言いたくなる」と書いてあり、「無駄な作業はやめておきな」と締めくくっているのだが、それはポート研磨の効果云々の話ではなく、レギュレーションだろ!と突っ込みたくなる。が、まあいい。参考になることも書いてあるから。
が、「アースチューニングこそ燃焼改善に大きく貢献するチューニングアイテム」「トルマリンはかなり効果が得られる」「最近注目すべきは波動処理製品!」とか書いてあると、本に載っていることのすべてが信じられなくなってくる。ま、それらのグッズに何らかの効果がある可能性は否定しないのだが、きちんと根拠を示してもらいたい。自らインターネット上にあふれる情報について正しく批判しているのだから。
プロで責任持って書いている本であるのなら、「『何でこんなに変わるの?』と驚く製品もある」といった抽象的な表現ではなく、データで示さなくては駄目だと思う。はっきり言って人の体感はまったく当てにならない指標だ。思いこみで、ころころと人の「感じ方」は変わってしまう。「特効薬デス」と医者から勧められて、うどん粉を丸めたものを飲んだって、効果が出るのだから。さらに、費用対効果の検証もまったくない。オイルや燃料添加剤は効くのかもしれないが、トータルでいくらかかるかを検証してみたら、素直にシリンダーヘッドを面研して圧縮比アップした方が安くより高い効果を得られるかもしれない。
ま、出版にあたってはさまざまな利害関係もあるだろうから、仕方がないところがあるのだろう。それでも、5月にエンジンを組んだときに、油圧が上がらなかった現象について、ばっちり言い当てた部分があった。「セルモーターを長時間、キュルキュルと回してもオイルが吹き出さないというトラブルも結構発生し、アマはパニック状態に陥る。この場合の多くの原因はオイルポンプにある。オイルポンプは分解して組み立てる際は、当然ながらオイルを塗布して組み立てるが、最後のカバーと付ける前とかに呼び水になるように少し多めにオイルを入れておかなくてはいけない。これを怠るとオイルポンプは空回りし、オイルは圧送されなくなるのだ」と実に的確に紹介されていた。エンジンをいじったことがなければ絶対得られない情報がきっちり書いてある半面、おや?っと思うことも書いてある。
大切なのは、なにが本物なのかを見分ける目なんだろう。