忘年会で泊まったのは、渥美半島の先端、伊良湖岬に近い角上楼というお宿。ここがなかなか良い味を出している宿で、素晴らしかった。
建物は昭和元年に建てられたという。もちろん木造で、階段は少々急なのだが、よく磨き込まれて光っている。木は放置しておけば腐ってぼろぼろになっていくけれど、磨き込んでゆけば、年ごとに味が出るのだな、というのが分かる。部屋は良くある和風旅館の造りなのだが、家庭的でとても落ち着く雰囲気である。
古い建物だが、お風呂はきちんと作ってあった。男女の別もなく、空いているときに気軽に入っていって、鍵を掛けちゃえばよいのである。お風呂は狭くても汚くなければ気持ちよく入れるものだ。木で作り込んであるから、また味わいがある。洗面所だけは、昔のまま残してあり、ひび割れた円形の陶器がとっても味わい深い。
メシはふぐずくし。ふぐ刺し、ふぐ鍋、ふぐの空揚げ、ふぐの焼き物などなど。刺身にしたふぐはあまり味もなくて値段が高いという以外に感動も薄いけれど、煮込んだときのだしは素晴らしい。ビールがぐいぐいと進む。
その後は、隣にある築150年の蔵を改造したバーで2次会。ここの大将が酒通、というかきき酒師であり、上等な地酒がたらふく飲める。カクテル、バーボンもよし。
このお宿、数年前にはつぶれかけて廃業寸前、素晴らしい建物もぶっつぶして駐車場にしてしまおうというくらいまで追い込まれていたらしい。平成10年には一年間の宿泊が5人、しかもビジネス客という有様だったという。それが、改装して昭和初期の雰囲気をうまく引き出した宿として作り込んでいったことで、一気に客が集まるようになった。今は平日も含めて3月末までぎっしり予約が入っているという。
やはり、テーマを定めて作り込んだことが成功の秘訣じゃないだろうか。今、日本全国に同じような宿が建っている。広いロビー、大理石のお風呂、ぴかぴかした廊下。すべてが均一化されていて、日本どこへ行っても同じ。その土地のものを食べるぐらいしか変化がない。食べ物だって怪しいものなのだ。魚がおいしいとされる街のホテルで、韓国あたりから輸入した魚で舟盛りを作っているという笑えない現実。
「日本人へのおもてなし」を考えたときのキーワード。「木」「小規模」「アットホーム」「本物の料理」。偽物じゃないおもてなしなら、ちょっとぐらいお金を使っても満足なのだ。