11月23日

 ユーノスに恋していて、女性には興味がないんじゃないかと思っていた耐久ドライバーの一人が結婚式を挙げるというので、カメラを持ってお手伝い。集中して結婚式の写真を撮る、ということは、けっして片手間ではできないので、カメラマンとして呼んでくれ、と招待客の中には含まないでもらった。ご祝儀払って、写真撮って、ご飯すら食べられない、というのではあまりにも切ないので、写真を撮るためだけに呼んでもらった、という形の方が気が楽。

 久しぶりに結婚新聞も作る。そこはこちらもプロなんだから、手抜きはできない。写真撮影が特別にできなかったのは痛かったが、婚姻届にサインしたセレモニーの写真がなかなか良い表情だったから、それを採用。A3判、裏表2面の新聞が出来上がった。親族にも満足してもらったんではないかと思う。

 着付けからリハーサル、結婚式、披露宴まで集中して写真を撮影。人物が何かをしている、という場面の撮影ならば、ほかの人には負けない自信がある。新郎がステーキを焼いて、それをフランベする場面があったのだが、炎の色がきちんと写るようにささっと絞り優先モードに切り替えたら、大当たりでなかなか良い感じの絵が撮れた。

 なかなか良い式だったのだけれど、すべてを忘れてしまうぐらいな強烈な出来事が。

 式が終わり、出口付近でたむろして、そろそろ帰ろうかモードのみんな。玄関までの通路の周りが池になっているおしゃれな建物なのだが、結婚式に出席しただれもが思うことが「この池に落ちそうなぐらいの”ちょうちょ”をやってやろうか」というよこしまな考え。

 ちなみに「ちょうちょ」とは、ある人間の両手、両足をそれそれ4人の人間が持って、ちょうちょ、ちょうちょ、と叫びながら上下に振り回す荒技である。逆さ胴上げの怖いバージョンと言えば分かってもらえるか。

 水面に向かってちょうちょをやれば、たぶんおなかとかネクタイとかが着水して愉快な状態になる。おもしろいことは間違いがないのだが、新郎が着ているのは高そうな貸衣装。さすがに30代にもなると、人間丸くなって理性が働き、なかなかそんな荒技を繰り出すわけにはいけない。

 新郎の友人どもが「ちょうちょしたいな、でもできないな」という微妙な空気で、出口付近でまったりとすごしていたところに、新郎のお兄さんが千鳥足気味で登場。何を思ったか、「∝iZTЩРД!!!」となにやら聞き取れない言葉を発しながら新郎に突進し、新郎を水の中に突き落とす仕草をした。

 普通なら「ははっは、冗談だよ」と終わりそうなものだが、突進したお兄さん、一瞬身を引く動きをしたのだが、飲み過ぎていたらしく、バランスを崩して制御不能なまま水方面へ突進。それをはっしと受け止めた新郎も、酔っぱらっていたから兄ちゃんを跳ね返すことができなかった。二人は固く抱擁を交わしながら、池方面へ倒れ込む。新郎、イナバウワーも真っ青にのけぞった。

 すぐ横で見ていた僕には兄を抱きしめイナバウワーな新郎が、マトリックスばりに5秒ぐらい宙に舞っていたように見えた。スローモーションで池につっこんでいく2人。ばっしゃーんともろに池に落下。新郎が、突進してきたお兄さんを後ろに投げ飛ばした感じで、もちろん、そんな態勢で池につっこんだものだから、頭から着水した。

 友人がやっちゃったら、みんな恐ろしい光景に一気に逃げ出すに違いないのだが、相手は親族。大爆笑の渦が巻き起こった。水の中でもがくお兄さんと、柵につかまって4分の3ぐらい着水したまま動けなくなった新郎。まだ着水していない足を持って、みんなで助け出してあげた。ずぶ濡れで肩を組んで笑う兄弟。もう、やけである。

 帰りの車の中では、終始思い出し笑い。せっかくのいい雰囲気の式だったのだが、お兄さんが出席者の心をかっさらってしまった。だれもどんな式だったか、覚えていないんじゃないだろうか。