なぜか仕事で大学病院に行った。ある人と会いたかったからである。別に深い意味があるわけではなくて、相手は40代のおっちゃんである。
なかなか会えずに待ちに待ったのだが、待っている間、行き交う人々をとっても興味深く観察した。医大生が近くを通過すると、激しくうるさいのは当たり前として、出入りする製薬会社のセールスマンが興味深かった。
研究室に入り込むセールスマン。それを迎える助教授や講師たち。平身低頭のセールスマン。時に傲慢無礼な「センセイ」たち。待合室でもスーツ姿に七三の出で立ちで、いすが空いているのに、飽くことなく立ち続け、名前が呼ばれるのを待っている。大学病院は、比較的重い患者の集まる場所である。とにかく目立つのである。ま、濁った目できょろきょろしながらぶらついている僕も相当目立っているんだろうけれど。
結婚式に出た医者の卵の友人によると、治療に際しては病院ごとにある病気に対処する順序を決めたプロトコルというものがあるらしい。医者としては効果が同じならどの薬を使っても同じこと。しかし、一度、その病院で、ある病気に対するプロトコルが確立すると、しばらく変わることがなく使い続けるのだという。製薬会社からすれば、そのプロトコルに自分の会社の製品が使われれば、安定した売り上げが見込めるわけで、必死になって売り込むのだそうだ。実際、その友人も、セールスマンによるさまざまな攻勢を受けるらしい。
待合室のセールスマン、面会の申し込みに対し「あと1時間ぐらいかかるよ」と言われても目を輝かせてうなずく。製品名をプリントしたティッシュペーパーを4箱下げて、しかも袋にその科の人数分、差し入れの飲み物を携えていたりして、もう、涙ぐましい努力。一方、患者をさばきながら対応している医師や看護婦は迷惑そう。見ているこちらが胸の痛くなる光景であった。
大きなお世話だが。