10月5日

 ローマからナポリへ移動しようと、ローマ・テルミニ駅にて切符を購入。窓口は長蛇の列なので並ぶ気にはならない。英語も片言だし。ということで、豊富に並んでいる自動券売機にて購入する。ガイドブックを事前に読んでいて操作方法はばっちり。だったはずなのだが、2人分を購入する方法が分からない。全席指定なので、2人分を別々に購入すると席がばらばらになっちゃう。

 途中まで操作しては1からやり直してを繰り返し、機械も変えてみる。だが、できない。う〜む、どうしようか、と試行錯誤を繰り返していたら、後ろからでっかい黒人のおじさんが「違う違う」という感じで、声をかけてきて、1から操作をしてくれた。「ナポリに行きたいんだろ?」って感じで手際よく画面をタッチ。2人分のチケット購入の操作を教えてくれた。

 ああ、あれだな、と最初から分かっていた。親切に教えてくれるのだが、終わるとチップを要求されるのだ。そういう人がいますよ、ガイドブックにちゃんと書いてある。

 が、本当に助かったからこちらからチップを渡すことにした。財布から2ユーロコインを取り出して手渡すと、さも当然と手を出してきた。お互い合意の上だから何となくお互い気持ちが良い。購入したチケットは5分後発だったから、何番ホームから出るかも教えてくれ「早く早く」と送り出してくれた。おかげで、サレルノからローマまでのチケットは自分でさくっと購入できた。

 働いたんだから対価を、裕福なんだからおこぼれを、そんな文化が根付いている。

 チップ文化は日本人だとなかなか自然には出せずに煩わしいかもれいないが、何日か過ごしてこれはこれで良い文化だと思った。チップを見込んで飲食店のボーイさんとかは給料が低く抑えられているということで、それはあまり良くないかなあとは思う。たぶん、日本人は出さない人も多くて、カード払いしようとすると「サービス料は含まれておりません」と念を押される(見た目や振る舞いで日本人と分かるみたい)のも鬱陶しくはある。けれども、いかに気持ちよく接待しようかと工夫する余地が大きくあると思った。不快に思うことがあったら出さなければ良いし、多めに出すと「Grazie
Mille(グラッツィエ・ミッレ)」と本当に喜んでくれる。お金が間に介在してはいるけれど、人間同士のつきあいがあるというか。

 日本に帰ってきて、翌日の朝食を買おうとコンビニに入った。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」。数百円の買い物をしただけなのに、実に気持ちが良い。マニュアルに従っているから、予想を裏切ることがないし、全国一律のサービスを受けられる。確かに気持ちが良いしチップをいくらにするか考えなくても良いけれども、人と人のぶつかり合いみたいなものは皆無。味気ない。

 多くの大衆的なお店の店員さんはアルバイトで非正規で、マニュアルがあるからだれでも良いよ、みたいな風潮がある。

 そういうお店に慣れきっている僕と言えばたぶん、イタリア人から見たらとっても無表情で何を考えているのか分からなかったに違いない。それは、僕がイタリア語をまったく理解できないからでも、ほとんど英語の単語単位でしか話せないからでもないと思う。お店の人との掛け合い自体に慣れていないのだ。

 どっかの商店街で「今日からチップ制!」と宣言して実験したらどうだろうか。定価を1割ぐらい下げて、ついでに店員さんの人件費も1割下げて。コスト削減とか利益率だとか、そんな数字だけじゃない、新しいサービスが生まれると思うのだけれど。