東京の池上というところは、なかなか面白いところで、知らなかったのだが、日蓮宗の四大本山の一つの本門寺がある場所で、小高い丘全体が寺になっていて、その周辺にもお寺が密集していた。仕事自体は実相寺であったのだが、面白そうだったので本門寺に上がる坂道をとことこ歩いていく。
古くからあるお寺の境内には、長年切られずに残った森がある。「鎮守の森」と呼ばれて、なんとなくおどろおどろしいうっそうとした森である場合が多い。
本門寺周辺も鎮守の森が残っていて、宅地化し尽くされた土地にぽっかりとオアシスのようにミニチュアのような森が残っていた。丘を登り切ると、大きなお寺の建物が見えてくる。お寺には特に用事があるわけではなく、時間も迫っていたので、お墓を横切る階段を下って実相寺へ。周辺の建物の中にも、古い木造で味のあるソバ屋だとかが突然姿を現したりする。同じような建物がずらりと通りに並んでいた門前町だったのだろうな、と勝手な想像が頭に浮かぶ。
実相寺では朗読会を見る。仕事か趣味か遊びか分からなかったのだが、仕事の立場上ぜひ来てくれ、と言われ、さらに会社に交通費を出してもらっているのだから、仕事なのだろう。さすがに、朗読の世界にぼうっとふけっていたらまずいかと思い、写真を撮っておいた。
9時半ごろ終わる。帰ることができないのは分かっていたので、中板橋の某氏のところに転がり込む手はずをしてあった。新婚ほやほやの家に転がり込むのだから、大変迷惑な話なのである。本当は来てほしくないのだが、電話があれば「かまわないですよ」と社交上の挨拶するのが人の常であるが、僕には通用しない。「あ、そうですか。ではありがたく」と、転がり込むのである。
歩いて、東急池上線池上駅を目指す。だが、来た道を戻ったつもりだったのだが、なぜか駅に着かない。すでに午後10時前なのだから、焦る。おかしいおかしい、と思い、かなりの早足で歩いていたら、線路に出た。様子がおかしい。ちょっと線路の幅が広い。と思ったら、列車が通過。東海道本線だった。頭の中がパニック。そんな中、京浜東北線も通って地理をまったく知らない僕はいよいよ、訳が分からなくなった。
半ばべそかきながら、線路沿いを東京方面へ歩く。蒲田に着くだろうと思ったのだが、これが失敗だったみたいで、いくら歩いても駅に着かない。歩いて歩いていやになったから、タクシーに乗ろうかとも思ったのだが、こういうときに限って通らない。歩いて歩いて足が棒のように感じるようになった頃、ようやく大森駅に到着した。まったくあさっての方向に歩いていたことが判明する。東京の街って方角がまったく分からない。
1時間後、中板橋に到着して、新婚宅に転がり込み、新郎だけ引っ張り出して居酒屋でビールをがぶ飲みする。困り顔の新郎をさしおいて、一人、軽く3杯飲んだところで、はっと思うところがあって、新婚宅に戻る。戻ってシャワーを浴びたら、すぐに意識を失った。