10月29日

 飲酒運転の後部座席に乗った。しかも、警察官の目の前で。普通なら、修羅場の状況だが、きわめてわきあいあいの雰囲気であった。

 飲酒運転が問題としてクローズアップされた今日この頃、僕ももし飲酒運転で検挙されるとクビにされかねない勢いである。特に、飲酒運転の車に同乗しているだけでも咎が及ぶのだから、警察官の前で酔っぱらい運転の後部座席に乗っているというシチュエーションは、本来ならとってもやばい状況のはずだ。

 が、僕は交通課長がいる横で、飲酒運転の車に「乗ります!」と手を挙げて車に駆け寄っていき乗り込んだ。

 江南の自動車学校が主催した、飲酒運転体験テストにおじゃましたのである。

 まず、しらふの状態で運転シミュレーターとコース上の運転を体験してもらう。教習車に教官付きで乗り込み、自動車学校が携帯電話を貸し出して、運転中にかけちゃうというおまけ付き。普段、やっちゃあいけないことを、堂々とやっているところを見てしまうと、何となくわくわくしちゃうものである。

 運転能力などを計測して、そのまま宴会に突入。警察官が見ている前で、ピザなどをつまみに、ビールや日本酒、ウイスキーに焼酎。自動車学校の校内で、普段は教官を務めて「飲酒運転は絶対ダメです」と話している人が、酒を勧めるのだから面白い。それまで、なんとなく遠慮がちで堅い雰囲気だったのが、酒の力で一気に宴会酔っぱらいモードに突入した。

 交通課の警官がおもむろに取り出したのが飲酒検知器。さすがに飲酒検問でひっかかったことはないから、間近で見るのは初めてである。アルコールを検知するガラス管の両端を割って検知器にセットし、酒臭い息を吹き込んだビニール袋をセット。真空引きをして2分間、ガラス管の中の試薬の色の変化を見る。端から徐々に赤色がアルコール分によって白色に変化していく。2分後、ガス抜きをすると、さらに反応が進む。どこまで白色に変わったかで、呼気の中のアルコール濃度が分かる仕組み。

 「あんたはもう検挙」「おまえは逮捕だ」などと、飲酒検知器を前に盛り上がる酔っぱらいたち。いよいよメーンイベントである。

 顔の赤い集団が、教習車に乗り込み、次々と走り出していく。コース内のクランクなどを普通に走っていき、最後に飛び出してきた障害物にぶつからないように急制動を掛けるテストと、スラロームテストをやる。

 で、一番勢いの良さそうな人の後部座席に乗り込んだ。「普段とまったく変わらないよ」とおにいさん。そんな言葉、信じるわけがない。

 それでも車は普通に走り出し、コース内を順調に回る。クランクとかも体が覚えているためか非常にスムーズ。ところが、点滅信号の前では、必要以上に慎重に一時停止をして左右を確認する。こうしたオーバーアクションが飲酒の一つの影響なんだろう。

 そして、最後の急制動とクランク。教官の「40キロまで加速して。アクセルを踏み込まないと速度が上がらないよ」との言葉を真に受けて、フルスロットルをくれるおにいさん。うなりを上げるエンジン。目の前のデジタルスピードメーターは軽く40キロを超えて50キロ近くまで上がる。やばい、と思ったら、前方にグローブが放り投げられて「あっ!」というおにいさんの声とともにスキール音。グローブが投げられた位置よりも5、6メートルは先に進んだ。「投げるのが遅せえよ」と声を荒げるおにいさん。が、向こうはパイロンを目印にして正確に投げているのだから、反応が遅かったのである。

 ちょっと怒りが入った酔っぱらいの運転で外周を回る。同乗者がいるときにはあり得ない突っ込みでコーナリング。こっちはもう、ドアにしがみついているしかない。

 いよいよパイロンスラローム。「できるだけ早くクリアしてね」との教官をまたまた変に理解して、アクセルを踏み込むおにいさん。急アクセル、急ハンドルのものすごい挙動で、パイロンタッチはしなかったものの、タイムなんて出るわけがない。案の定、高齢者検定のお年寄りよりも遅いタイム。気が大きくなっているのか、いちいちオーバーアクションな運転になる。

 と、身をもって飲酒運転の危険性を体験したひとときであった。が、そんな危険状態に身をゆだねながらも、「ミニサーキットみたいで楽しそうだな」と久々に訪れた教習所をロードスターで激走してみたいと考えていたことは、内緒にしておこう。