車に乗りたい、という欲求が胸の奥からふつふつと湧き上がってきて、夕方近く、ついに頭の辺りで破裂し、まともな思考が消し飛んだ。仕事をちゃちゃっと片付けて、いつもの山道に走りに行ったのである。きっと、抜けるような青空のせいに違いない。まぶしいほどの青い空の真下にいながら、ドライブするな、という方が間違っている。よく考えたら2日連続で仕事を抜け出してドライブに行っている。僕が経営者なら、こんな社員はクビにする。
スーツ姿なのに屋根を開けて気合いを入れ、一路山を目指す。気合いを入れ目指す、と言うと、何やら決死の覚悟でもしているような、そんな雰囲気も漂ってきそうで、周りで走行している車にははなはだ迷惑な存在だが、実際は数分も走れば山道に突入してしまうのである。オープンカーにスーツ姿の怪しき男の目撃者は、それほどいない。
昨日と同じく2往復ほど。やはり、足回りが気に入らないな、早くKONIをオーバーホールして付けたいな、などと考えながら、少し気合を入れてコーナーに突入。ぐらり、と姿勢が乱れ、これ以上のスピードだったらどこに飛んでいくのか分からないよ、などと情けない思いをしながら走っている。スーツ姿で屋根を開け、ところどころでタイヤをうならせながら走っているのは、心の中ではもしかしたら少しは格好良いかも、と悦に入っているのだが、スーツの裏地はとても滑る。車の中で男が1人、腰砕けの姿勢でステアリングと格闘している姿は、決して見栄えのするものじゃない。しかも、コーナー中に少しスピードが出過ぎなことに気付き、出口でアクセルをゆるめたりして、まったく、なってはいないのである。でも、どんなにうまく走れなくても、車のせいにしないのがポリシー。まだまだぞ、とつぶやきながら、いつまでも上がらない腕を磨いているつもりになっている。
頂上でガソリンがないことに気づき、とぼとぼと山を下った。ガソリンを入れたら35リットルちょっと。トリップメーターは150キロと少しを示す。1600ccの車でリッター5キロしか走らないのはまずいな、と多少後ろ暗さを感じながらも、翌日にはけろりと忘れて、また走りに行くんだろう。
だって、シーズンオフが近いのだから。