いつも日付が変わる前後に行くのに、昨日は仕事場の先輩とともになぜか8時台にいつものショットバーに行ってしまった。マスターびっくり。松本産のセロリをもらってあったので、小脇に抱えていた異様な姿にもびっくりしたんだろう。手渡すと「ちょうどよかった。買おうかと思っていたところ」と、喜んでくれた。本当に「ちょうどよかった」かどうかは分からないが、心からあげて良かったと思わせるリアクションがうれしい。客が集まるのは、1杯500円の明朗会計でお得だから、というだけではない。
マスターに惹き付けられた夫婦が、10時すぎに入ってきた。なにやら、必死にホテル探しをしている。紅葉の時期だからか、観光地・松本のホテルには空きがない。10軒以上は電話をしている。「泊まる場所がないのかな」と思っていたら、チェックインしたホテルの門限が11時ということが気に入らないらしい。曰く「松本に来たら、マスターの店で明け方まで飲まないと気が済まない」。結局11時になってしまい、新しい場所も確保できていないのに、チェックアウトしてきてしまった。
いろいろ探して宿は確保。よっぽどこの店が気に入っているとみえ、「今日は朝まで飲んでいく」。以前、松本に来たとき、開店したばかりのこの店で、いろいろな酒や食べ物を出してもらった挙げ句、「今日のお代はいい」とマスターが言ったらしい。よっぽど意気投合したんだろう。
話を聞いていると、民事再生手続き中の企業の関係企業の責任者という。民事再生のあおりを受けて、この会社単独では利益が上がっているのに、明日倒産するらしい。
悲惨な話をしているわりには悲壮感がない。いろいろ身の上話を聞いているうち、やくざな家系であることが分かる。しかし、この人は「堅気」らしい。実際、入れ墨は入っていないと言う。
こういう人の話を聞くのが一番面白い。ある街のぼったくりバーに入ってしまい、請求されたのが1人8万円。5人だったから40万円の請求書だったそうだ。この種の店では1人1人別の部屋に呼び出すのだそう。他の人は払ったのに、自分は頑として、入場料の数千円以外払わなかった、という。もちろん、身内の素性は明らかにしていない。あまりにも心棒の入った態度に、「こんなにがんばったのはお前が初めてだ」と、親分に呼び出されたという。
「自分はどんなふうになっても稼いでいけますからね」と、威勢がいい。ここには書けないような仕事も、実際やっていたという。「まじめにやっている人につらいことをいわなければいかん」と、民事再生企業に対する恨み節を延々と並べ、こちらも魅力的な話に聴き入っていた。
晩飯も喰らわずに、セロリやチーズといったものだけ食べて、午前2時。帰りにカップラーメンを買い、仕事場で喰らう。
翌日1日仕事に身が入らなかったのは言うまでもない。