JR富山港線というのが、4年ほど前まで走っていた。富山駅を起点に、神通川右岸をほぼ北進し、岩瀬浜まで結んでいた。が、車社会の到来で利用客が低迷し、儲からないから運行本数を減らし、さらに利用者が低迷するという悪循環。富山ライトレールに生まれ変わる直前は、1時間に1本の運行。
そういう状況の中、持ち上がったのが北陸新幹線に向けた富山駅の高架化計画。JR北陸本線のほかに、高山本線と富山港線が入っている富山駅。高架化するとなると、とりあえず、今走っている線路を別の場所に移しておいて、高架橋を造らなければならない。でも、富山駅の周辺は一応都市でビルが建っている。3本の路線の仮線をつくるとなるとそれなりの土地が必要なわけで、さてどうしようか、という話になる。
普通の人の発想ならば、1時間に1本しか走っていない路線のために高架橋みたいなでかい構造物の規模を大きくするのは馬鹿馬鹿しく感じる。「どうせ利用されていない富山港線は廃線にして、空いた土地を仮線用地にすれば?」というところに落ち着く。廃線跡はバスレーンにでもすれば良い。ごもっとも。使われていない鉄道なんて無用の長物なんだから。
ところが、富山港線は違った。発想の大転換。富山駅が高架駅になるのだから、富山港線も富山駅接続部分は高架化、というのではなく、「駅付近だけ、路面電車にすれば?」と発想した人がいた。駅接続部分を既存の道路に沿った路面電車とすれば、駅付近の富山港線部分は空き地になる。その空き地を活用すれば北陸本線や高山本線の仮線用地をひねり出すこともできるし、富山港線向けに高架橋を造る必要もない。なんと合理的!
富山市がJRから富山港線の施設を払い下げてもらって路面電車部分を整備するという「上下分離方式」(19日付日常見てちょうだい)で、かっこいい車体が初めて富山にお目見えした。
これね。富山ライトレール。愛称ポートラム。市内線の古い路面電車が、ががががが、ぴしぴし、ごーっと走っていくのとは違ってほとんど無音。古い電車は段差がものすごくて、おばあさんがよっこらしょっとよじ登る感じだったのだが、低床車両なので、とことこと乗り込むことができる。
車社会の富山で「どうせ乗る人いないだろう」と見られていたのだが、15分おき(ラッシュ時は10分)に走らせたら便利だということで予想以上の利用者を集め、「公共交通再生の見本」「車から鉄道へ」みたいな感じで喧伝された。
話題になったものだから全国から視察が相次ぐ。我が町にも導入できないかと。しかし、多くの人が、見に来て「うちじゃあだめだ」と首を垂れて帰って行く。
だって、富山港線がもともとあって、最後の1.1キロだけ路面電車にしただけだもの。多くの都市が都心に入るルートを路面電車にしたいわけだけれど、「既存の道路に路面電車を造ったら、余計に渋滞がひどくなる」といった理由で導入できない。
富山の人10人に聞いたらたぶん10人とも「ここは車がないとなにもできん」と答える。車依存が平均以上に激しい県なのだ。その中で、電車に力を入れるのはとても良いことだとは思うけれど、実態以上にもてはやされている面もなくはない。
セントラムにしても、もともとある路面電車に1キロ新たに敷いただけ。しかも単線。もともと路面電車のインフラがあったからできた芸当なのだ。「客寄せパンダ」的な時期が過ぎて、どれだけ利用されるのか。これから正念場を迎える。
北陸新幹線が開通するのが2015年春ぐらい。そして、2、3年かけて、今度は北陸線を高架にしてようやく事業は完了する。そうして、富山駅が完全に橋上駅になったところで、ポートラムとセントラムがこんにちは、をする。そう、駅北、駅南で分断されている路面電車を駅の下をくぐってドッキングしようという構想があるのだ。
最低でも7年後のお話なのだが、これだけめまぐるしく状況が変わる世の中、路面電車の評価はどうなっているんだろうか、と何となく心配。