1月14日

 感染性胃腸炎だって、世の中で騒いでいる。はっきり言って、騒ぎすぎだ。いや、騒ぐのはかまわないのだが、的を射た騒ぎ方をしなくてはならない。2年前に東京の偉い人にお話を聞いたことがあるが、そのころと発生件数自体はそれほど大差はないのだ。

 ノロウイルスという聞き慣れないウイルスの名前が出てきたから、なにか新しい病気が発生したとでも勘違いしてしまいそうなのだが、昔から「胃腸風邪」と言われる症状が出たら、多くの場合がこのウイルスの仕業だったと思われる。なぜ、最近になって騒がれ始めたか、といえば非常に小さくて顕微鏡ではあまり見えなかったのが、遺伝子検査の普及で、原因物質が特定できるようになっただけのことだ。

 ノロウイルスと名前が確定したのも一昨年ぐらいのことである。それまでは小型球形ウイルス、SRSVと呼ばれていた。食中毒の原因物質として統計に登場した途端、トップに躍り出たほどのありふれたウイルスなのである。

 ひどい下痢を起こすが、死に至ることはまれだ。このウイルス、律儀に人の腸管の中でしか増殖できない。人間を根絶やしにしてしまったら自分の存続が危ぶまれるから、宿主が死に至るまでの悪さはしないのだ。ここら辺はインフルエンザと同じ、ウイルスの宿命である。

 人の腸管でしか増えないから、感染経路も限られている。天然の食材からの感染は、カキなどの二枚貝がほとんどだ。人の排泄物が下水を流れて川を下り、海に至ってそこにすむ貝たちがえさのプランクトンとともに、ウイルスを取り込んで濃縮するからである。昔から「カキは当たると怖い」と言われてきたが、原因の多くがこのウイルスだったに違いない。

 あとは、飲食店などでウイルスに汚染された手で調理して集団食中毒を起こす場合もある。ウイルスによって食中毒を起こした人のうんちや逆噴射物にも多く潜んでいて、下手をすると空気感染するから注意が必要だ。この時期は赤ちゃんが感染することもある。そのおしめを交換する親もウイルス感染の危険がある。乾くと空気中に飛ぶから汚物が乾かないうちに適切に消毒して処理することも大切。食品は85℃以上で1分間以上加熱すれば感染性はなくなるという。

 もともと胃腸風邪の原因としてありふれていたのだから、数だけ強調して「集団発生だ」と騒いでもあまり意味がない。ほとんどの人にとっては下痢でひどい目にあうだけで死んでしまうことはないのだが、やはり体力が衰えたお年寄りは気を付けなければならない。騒ぐのならば、そういったウイルスがあることを知らずに感染を広げてしまっている高齢者施設の感染対策のずさんさをあげつらうべきなのだ。

 「お年寄りに死をもたらす病気」としての認識が広まってきたインフルエンザ同様、給食やおむつの処理時など、感染が広がらないように徹底した対策を取ろう。そうやって騒ぐのならとても有意義なのだが。