油圧がかからない!
エンジン本体を組み上げ、4連スロットルにオルタネーター、セルモーターと取り付け、ようやく積み込むだけの状態となった。このエンジンを組んだのは5月の3連休。ジムニーにエンジンパーツや工具を満載して富山入りし、車屋さんの工場でエンジンを組み、3日間でシム調整まで終わらせてあった。さすがに、積み込みまでは出来ず、いったんはジムニーにて帰宅した。
翌週は土曜日に知り合いの結婚式の2次会があり、さすがに欠席できなかったので土日の作業は不可能。それでも5月末には軽井沢ミーティングがあるので、一日も早くエンジンを載せなければならない。仕方がないから月曜日に休みを取り、土曜の夜、夜行で富山入りし、日曜午前中から作業をするという無茶なスケジュールを組んだ。午前4時ぐらいに富山入りし、タクシーにでも乗って車屋さんの工場まで行こうと考えていたら、小矢部に住む仲間から電話が。金沢まで来れば、迎えに来てくれて、しかも泊めてくれ、さらに車屋さんまで送ってくれる、というのだ。やっぱり持つべきものは仲間である。
日曜日、やっぱり仲間の家で飲んでしまい、2日酔いで富山の車屋さん宅に到着したのは午前9時ごろだった。異物を吸って壊れてから2カ月弱。寝る間もおしんでエンジンを作って、ようやく車に積み込む日が来たのである。
工場の設備が使えるから、積み込み自体はとってもスムーズに終わる。エンジンルームは、すでに仲間によって洗浄が終わっていた。クランクのシールからオイルが漏れてどろどろに汚れていたミッションのハウジング内もぴかぴかに輝いていた。みなで車を押して工場に入れる。クレーンでエンジンをぶら下げてエンジンルーム内に降ろす。プロがいるから、素人だけでは苦労するミッションとのドッキングもすんなりと終了。
こつこつとボルト締めやら配線やらの作業に没頭する。Freedomに付いてきた配線図を参考に、スロポジやISCVの配線をする。作業が終わったのは午後7時半ぐらい。ほとんど飲み食いせずにずっと作業を続け、しかも重要で大変なところは車屋さんにやってもらっているのに、これだけ時間がかかってしまった。
まあまあ、エンジンさんも飲んで景気付けてくれや。
まずは、点火プラグを抜いた状態でセルモーターを回してクランキングし、オイルをエンジン内に回す作業をする。それまでにも、ヘッド載せ替え2回、エンジン載せ替え2回の計4回は同じことをやっているのだから別にどうってことはない作業なのだが、内心、やはり緊張している。
エンジンがようやく回るという期待と、回らなかったらどうしようという不安と。
緊張しながら、キーを回す。
きゅいぃぃぃ〜
とセルが勢いよく回る。点火プラグが抜いてあるからかなりの回転数でエンジンは回る。普通なら20秒ほど。油圧計の針が、ぴくっと動いてじわっと右に振れ始め、だいたい2キロぐらいのところまで動く。が、びくりとも油圧計の針は動かない。
きゅいぃぃぃ〜
と、セルモーターの音だけがむなしく工場内に響き渡る。こんなはずじゃないのに、という思いがじわじわと心の中に広がってゆく。再チャレンジ。
きゅいぃぃぃ〜
いっこうに油圧がかからない。油圧センサーはけっこう壊れることがあるので、まずそれを疑うのが第一だ。まずは配線が繋がっているかを確かめる。……きちんとつながれてある。
車屋さんの指導で、油圧センサーを外してそこからオイルが吹き出てくるかを確かめることに。ウエスを当ててセルをちょこっと回す。
きゅ、きゅん
オイルは出てこない…。オイルがエンジン内部に回っていない、という厳しい現実が確定してしまったのである。
原因がまったく想像できない。オイルストレーナーか? オイルパンのバッフルプレートを液体ガスケットを塗って取り付け、オイルの吸い口であるストレーナを取り付ける。そのとき、ボルトを締めていくとストレーナーの曲がり具合の加減で、バッフルが浮き上がることがある。ガスケットで張り合わせてあるので、浮き上がるとガスケットが「べろーん」とはがれてしまい、あまりよろしい状態ではなくなるので、ずれるのを押さえつつ締め付けた覚えがある。ストレーナーの根本のガスケットもちゃんと新品を使ったので、取り付け不良とも思えない。が、油圧がかからないのだから、ストレーナー回りからエアでも噛んでオイルが吸えないのだろうと思うのがいちばんありそうなトラブルである。
ここで頭は真っ白だ。オイルポンプ回りをチェックしようと思ったら、オイルパンを外さねばならない。要するに、せっかく1日かけて積み込んで配線まで終わったエンジンを、もう一度降ろさなければならない、ということである。翌日には自分の車に乗って帰るつもりだったのに…。
「 よし、降ろすぞ 」
しばらくぼう然としていたのだが、車屋さんのこの声を号令に、そこに居合わせた3人がぱっと作業に取りかかった。降ろさなければエンジンは始動できない。やるしかないのである。この時点で午後8時半。もう夜である。
僕は下回りに入って、ミッション回りのボルトなどを外す。車屋さんがプロの速さを生かして複雑な吸気側の配線、配管を、もう1人が排気側を。3人が物も言わずに、ばっと作業した。「よし吊るぞ」とエンジンを外して時計を見たら、作業開始から30分しかたっていなかった。でたらめに早い。
エンジンを宙ぶらりんにしたまま、タイミングベルト回りが外されていく。再びエンジンスタンドに固定し、ひっくり返してフライホイールも着いたまま、オイルパンを外してみると、オイルストレーナーはきちんと着いている。問題なさそう。
次に疑われるのがオイルポンプ。ぱっと外すと、まず第一の不具合が、オイルシールが壊れていた。ここがオイル漏れを起こすとやっかいだから、オイルを塗って丁寧にはめ込んだ覚えがある。取り付けの不具合とは思えないのだが、何にせよトラブルの原因がオイルポンプ回りにありそうなことは分かった。
しかし、なぜオイルポンプに不具合が出たのかがいまいち納得できない。ほかの原因はないものか。
オイルポンプからはまず第一にオイルフィルターに向けてオイルが流れていく。ポンプからフィルターの場所までのオイルの通路をチェック。もしかして、異物が詰まっていてオイルの循環を妨げているかもしれない。
エアーで吹いてみてチェック。異物は飛び出してこなかった。さらに、オイルポンプがオイルを送っていれば、ここの通路にオイルがたっぷり詰まっているはずなのだが、オイルも飛び出してこなかった。やはり、オイルポンプがオイルを送っていなかったということか。
オイルポンプに不具合があっただろうか。このオイルポンプは先のエンジンオーバーホールのとき、僕がばらして油圧のコントロールをするリリーフバルブ回りを交換した。前のエンジンが壊れてばらしたとき、取り外したままの状態でビニール袋に真空パックのようにして入れてあった。その後、1年近く放置してあったオイルポンプをそのまま取り付けた形だ。
ばらしてみると、ぱっと見では問題ないのだが、内部がべとべとしていない。リリーフバルブのプランジャーもバネを外して振れば出てくるはずなのだが、固くて上から押さないと出てこなかった。固着気味になっている。
どうやら、 オイルポンプ内がオイル切れになったのが原因 らしい。
午後10時前には再び作業を再開し、オイルパン回りを組み直す。オイルポンプは車屋さんが組み直してくれたので安心である。念のため、オイルパンを取り付ける前に、オイルストレーナーからオイルをなみなみと注ぎ込んでおく。
オイルパンのたくさんのボルトを根気よく締め付けてオイルを入れる。この状態で、クランクを回してみると、オイルフィルターの場所から豪快にオイルが飛び出してきた。さきほどは、ここまでもオイルが回っていなかったのだから、不具合は解消されたのだろう。
再び積み込む。物も言わずに黙々と作業。僕は再び下回りではいずり回る。すべてが組み上がったのが、午前1時半ぐらい。エンジン脱着とオイルポンプの点検整備が5時間で終了したことになる。空恐ろしいぐらい早い。
今度こそ、とクランキングすると10数秒で油圧がかかった。プラグを装着し、今度は火を入れる。ぎゅんぎゅんぎゅぎゅんと高い圧縮になった音がして、ばばん、ばんばんと初爆があった。やっぱりチューニングエンジンだから、この時点で音が違う。なかなかしびれる音である。この後、あっけなくエンジンはアイドリングした。
後日、エンジンチューニング本にて次のような記述を発見し、僕が体験したこの現象の原因はやはりポンプ内のオイル切れだったと確信した。
「 セルモーターを長時間、キュルキュルと回してもオイルが吹き出さないというトラブルも結構発生し、アマはパニック状態に陥る。この場合の多くの原因はオイルポンプにある。オイルポンプは分解して組み立てる際は、当然ながらオイルを塗布して組み立てるが、最後のカバーを付ける前とかに呼び水になるように少し多めにオイルを入れておかなくてはいけない。これを怠るとオイルポンプは空回りし、オイルは圧送されなくなるのだ 」(オートメカニック臨時増刊2003年9月、「エンジンを元気にする100の方法」より)
どうやら、前のエンジンからオイルポンプを外して、1年ちょっと置いておく間に、オイルポンプ内のオイルが切れてしまっていた、というのが真相みたい。
オイルポンプはエンジンを組む際、井戸の「呼び水」のように、オイルを多めに入れておくことを忘れないで置きたい。